メインフレームからオープン化は本当に割安なのか

日本年金機構の年金業務システム

興味があって日本年金機構の年金業務システムがホストコンピュータなのかサーバなのか調べてみたところ、ずっとメインフレーム(ホストコンピュータ)だったけど、最近オープン化(オープンサーバーシステム化)したことが分かりました。

7年くらいかけてメインフレームからサーバに移行したようです。

確かにホストコンピュータは高額です。最低でも1億円以上かかるとか。一方、サーバは比較的安く、1,000万円そこそこ出せば相当よいものが購入できます。

だったら、ホストコンピュータなんて使わずにサーバでよいではないかと考えるのは当然の流れなのかもしれませんが、はたしてサーバ化すると安価になるのでしょうか?

クライアントサーバシステム(いらすとやさんから)

かつて経験した分散化

年金業務システムが分散化した話を知って思い出したのが、私がかつて経験した情報分散化です。市役所の情報システム(群)はもともとホストコンピュータで運用していたのですが、もっと安いサーバに移行してコストダウンを図ろうとしたものです。

このプロジェクトが始まるときに私は当該組織に入り、このプロジェクトが完成するときに退職してしまったので、その後どうなったのかあまり知りません。

ただ、公表されている情報によると、分散化はしたものの、サーバを契約するに当たってどの組織も似たり寄ったりの契約書を作成することになるので、無駄だから統一的にひな型を作って、それを各組織で流用しましょうというような、分散化とは逆流するような仕事が発生していたようです。

また、各組織(例えば厚生労働省に当たる市民生活に直結した局)の職員は、情報システムについては素人ですから、保守運用委託契約を業者と結ぶにしても、相手方と対等に会話ができるとはとても思えません。結局、情報システム係出身の経験者を組織に取り込むことで、人的な補填を行わなければ分散化が実現できないという結果になっていました。

これでは仕事が属人化しますから、分散化によって減ったコストもあるでしょうが、増えるコストもあったでしょうねと思いました。

ホストコンピュータからサーバ化したときに高くつく要因

ホストコンピュータというのはいわばオールインワンで、なんでもできます。ものすごく高機能、高性能、高安定性です。

一方、サーバというのは空っぽです。何もできません。ただ最低限のOSがあるだけ。その代わり安いです。だから、ミドルウェアやさまざまな業務システムを搭載し、作りこんでいくことでようやくホストコンピュータ並みの高機能を実現できることになります。

問題はそのミドルウェアに著作権があることです。

メーカーはミドルウェアの機密に当たる事項については情報を開示しませんから、作りこんでいく業務システム側でミドルウェアの情報が必要となったときに困ります。必然、業務システムを作りこんでいくことができるメーカーは、ミドルウェアと同じメーカーか、その系列の企業ということになり、入札して価格を下げるということができなくなります(随契ばかりになる)。

これはホストコンピュータを使い続けていても同じく発生する問題です。役所が仕事を発注する場合、どうしても随契にならざるを得ないのです。

また、サーバの場合、何台も用意しなければホストコンピュータ並みの性能を発揮できないとなれば、結局高くつくことになります。長くても10年でサーバの寿命が来ます(早ければ5年くらい?)。そのたびに何台ものサーバを吟味して、入札仕様を起こして、入札してという作業を職員がやるのでしょうか。職員はサーバの知識が必要ですね。でも3年で異動する職員に、そのノウハウが蓄積できるのでしょうか?

ホストコンピュータを使っていても機器更新は数年に1回来ますから、同様の問題がありますね。しかし、台数がはるかに少ないです。ホストコンピュータは1台か2台。対してサーバは数十台から数百台。

結局私は、分散化に対して懐疑的です。安くはならない気がしています。むしろ、物事を複雑化し(関わる業者を増やすので)、職員を疲弊させ、本来の目的であるシステムが休まず動くことが難しくなると思います(みずほのシステム障害がいい例です)。

オープン化のその先 – クラウド化するのか?

今時代はクラウド化ですよね。サーバの時代はとっくに終わって、クラウドに情報を置いておき、さまざまなデバイス(PC、ノートパソコン、スマホ、タブレット、スマートデバイス等)で情報にアクセスするのが主流です。ところがお役所の仕事はいまだにクローズされた世界でサーバ化するのがやっとという状況です。

お役所の世界もクラウド化するのでしょうか?

私はしなくていいと思っています。便利さと引き換えにセキュリティが甘くなるからです。クラウド化は確かに便利ですが、私が業務で個人情報を扱うときには、クラウドには情報を絶対に置きません。事務所の個人情報取扱規程でもそういうルールにしています。

お役所の扱う情報なんて、まさに個人情報だらけです。クラウド化したらあっさり流出なんてことになりかねませんから、このままでよいと個人的には思っています。

クローズな世界でのクラウド化というのは、あるのかもしれませんね。AWSのようなサービスをお役所だけの閉じたネットワークの中で構築するというのは、可能のような気がしています。