労働時間総枠の端数処理【変形労働時間制】

賃金チェックをしていてぶつかる壁の一つに、労働時間総枠の端数処理があります。変形労働時間制を採用している場合の話です。

労働時間総枠の端数処理とは

1年単位の変形労働時間制を採用している場合、1年間における所定労働時間の総枠は、次のような計算式となります。

対象期間における所定労働時間の総枠=40時間×対象期間の暦日数÷7

例えば、1年が365日であれば、

対象期間における所定労働時間の総枠=40時間×365÷7

となり、2085.71428571429時間となります。

1年が365日の場合


1年が366日であれば、

対象期間における所定労働時間の総枠=40時間×366÷7

となり、2091.42857142857時間となります。

1年が366日の場合

ところで私は今さらっと小数点第11位まで書きましたが、実務ではここまでの桁数を取り扱うことはないでしょう。適当な小数点で切り捨てているはずです(上限ですので四捨五入と切り上げはないと思います)。

行政解釈では

行政通達などで明確にこの点を文章化したものは見つけられませんでしたが、労働法コンメンタールなどの行政解釈を見ると、どうも小数点第2位以下を切り捨てているようです。

令和3年版労働基準法 労働法コンメンタール455p



1か月変形のページでは、このような記載もありました↓

令和3年版労働基準法 労働法コンメンタール432p

これは1か月変形における総枠から割増を計算する段階の話なのでちょっと違うかもしれませんが、おおむねこの本では小数点第2位以下は切り捨てることで統一しているようです。



行政が作ったリーフレットの中には小数点第3位以下を切り捨てているものもあります。


東京都労働局のリーフレットから。1年単位の変形労働時間制について


個人的には、小数点第3位以下で切り捨てる東京労働局方式の方が好みです。なぜなら、2091.42時間というのは2091時間25分ですが、2091.4時間というのは2091時間24分です。1分の差が出ます。「1分くらいなんだ?」と思うかもしれませんが、労基署の臨検が入ったときには「1分単位で残業代つけてね」と言われますので、1分といえどもおろそかにはしたくないからです(なのに、労働基準監督署の上位機関であるはずの厚生労働省は小数点第2位以下で切り捨ててしまう・・・)。しかし、年間合計労働時間数は少ない方が労働者には有利のはずですから、労働基準法の精神にのっとるなら、厚生労働省方式(コンメンタール)の方を採用すべきなのかなあ・・・という気もします。


ちなみに、裁判所ではどうしてるのかなあ?という興味で判決文を読んでみると、そもそも変形労働時間制自体が認められることが少ないので参考にはならないのですが、最近読んだ裁判事例では割増賃金を計算するために月給制から時給を計算する過程で、1年間の中に存在する週数を52週と計算していました。

365÷7=52.14286….

この0.14286という端数は全部切り捨てて、52週です。なんとも潔い計算方法です。

これは相当労働者に有利な計算結果となっていました。というのも、そもそもその裁判において被告(会社)が非協力的で、なんにも用意せず、期日を守らず、証拠も提出せずというていたらくだったから、結果的に原告側の主張が認められることが多かったからなんです。だから、あまり参考にはなりません。

閑話休題。


どちらが正しいかという問題ではなく、会社でどうするか決めてもらえればよい話です。

小数点第2位以下とするか3位以下とするか、会社で決めて就業規則等で明文化しておいてもらえればよいです。

ところが、実際には就業規則がない企業でも1年変形を採用しています。そういう会社の賃金チェックを頼まれたときには、本当に途方に暮れます。

そういう場合に私がどうやって賃金チェックをするかを紹介します。

小数点以下を切り捨てない

とにかく、小数点以下を切り捨てません。

でてきた端数はそのままExcelで計算に使います。

最終的に1か月分の賃金が算出されたら、それと実際に支払われた給与明細の総額欄の金額とを比べます。

1円でも私の計算した賃金が多かったら、未払い賃金が発生しているおそれがありますので、どこで未払いが発生しているか詳しく見ていくことにしていました。

逆に、企業が支払っている賃金の方が多い場合は、そこで賃金チェックは終了です。

本当は、労働契約書や就業規則にない賃金が支払われている可能性がありますので、厳密には問題があるのですが、金額にして数百円、数十円程度でしたら誤差の範囲として、OKとしていました。


建設業の職種で、こういうどんぶり勘定な賃金計算を目にする機会がありました。

賃金計算している社長がめんどくさくなってくるのでしょうね、賃金を計算した結果、端数があったら全部切り上げて支払うという方針だったところがあります。

1,000円未満は全部切り上げて支払っていれば、未払い賃金の心配はないだろう、どうだ!というどや顔社長さん。確かにその通りですが、不利益変更の心配が出てくるので、できるだけそういう行き当たりばったりな計算はやめてほしいと思っていました(言えなかったけど)。


話が脱線しました。元に戻します。


小数点以下を切り捨てないで計算する場合、労働者にとって少しだけ不利です。会社にとって少しだけ有利です。

そうやって会社有利に計算した結果、それでも私の賃金計算の方が多いということは、会社の計算の仕方に未払い賃金があるということが確定とみて間違いないのでした。

という訳で、私は賃金チェックの段階では小数点以下を全く切り捨てないでチェックすることが多かったです。



もちろん、就業規則や賃金規定にしっかり小数点以下の端数をどう処理するか明記してある企業さんの賃金チェックではそれにのっとって計算します。

まとめ

以上、労働時間総枠の端数処理を小数点第何位で切り捨てるかについて紹介しました。

実務で困ったら、まずは就業規則を見てください。書いていないなら賃金規定を見てください。それでも書いていなかったら、運用で決めるしかないです。

運用で今までどうやっていたかをチェックすればだいたい小数点以下何位で切り捨てていたか分かるのですが、自力では分からない場合は専門家に聞くのも一つの手でしょう(専門家に聞く場合、料金はかかってしまうと思いますが)。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。