労働義務に付随する義務について【社実研より】
平日朝8時半からTwitterスペースで10分間だけ公開している、社労士の社労士による社労士のための番組「社実研」の2022年10月5日のテーマは、労働契約に付随する義務についてでした。
就業規則もないような(社員10人未満)小さな会社で発生した問題社員。
問題社員曰く、「だって労働者は法律で守られていますよね?」とのこと。
会社は私の言うことを聞いて当然、なぜなら労働者は法律で守られているからと主張する問題社員に、会社は何をもって対抗し得るか?というテーマでした。
就業規則がない訳ですから労働契約書が根拠となるのでしょうが、労働契約書も最低限のことしか書いていなかった場合、たとえば新たな仕事をやってくださいとお願いしたときに、「え!?だって最初の契約ではそんな話はなかったから、それって私の仕事じゃないですよね」と問題社員がやってくれないようなとき、どうしますかという話でした。
興味深かったので、調べてみました。
労働基準法
社実研の中でも触れられていましたが、労働基準法では労働者の義務と呼べるものはこれくらいしかないようです。↓
労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
労働基準法2条2項
しかもこれは罰則がある訳ではなく「訓示的規程と解される」(令和3年版労働基準法74p)ので、これを根拠にするのは難しいでしょうね(しかも就業規則がない場合の話ですから)。
労働契約法
社実研の中でも触れられていましたが、労働契約法で労働者の義務と呼べるものはこちらです↓
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
労働契約法3条4項5項(太字とハイライトは筆者)
これを根拠に新しい仕事をやってもらうことは、できなくはないように思います(しかし、果たして納得してもらえるかどうか)。
民法
民法で労働契約に付随する義務の根拠となる条文というと、これです。
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
民法1条(太字とハイライトは筆者)
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
民法の雇用契約の定義はこちら。
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
民法623条
憲法
憲法で労働契約に付随する義務の根拠となる条文というと、これです。
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
憲法12条(太字とハイライトは筆者)
順番が逆
ここまで引用してきて今さらですが、順番が逆でした。
憲法のこの条文があって、そこから民法や労働基準法、労働契約法があるのでした。
ミスリードな記事となっているなら申し訳ないです。
ところで、以前見た解決社労士さんのこの↓動画では、ちゃんと憲法を先に引用して、労働者が権利を濫用してはならないことを説明していて分かりやすいです。その上で公共の福祉とはなんぞやという話もしています。参考に、引用します。
憲法12条にある「公共の福祉」という言葉は….(中略)…..要は自分の権利と他人の権利との調整のことを言っています。自分の権利を主張するあまり他人の権利を侵害するようなことがあってはならないんだっていうことを規定しているわけです。
https://www.youtube.com/watch?v=DPqrZE8y5wA (1:01付近)
また、菅野先生の本によれば、民法の基本原則(民1条3項)を労働契約関係について宣明したのが労働契約法3条5項ということです(菅野和夫著労働法第12版152p)。
やはり順番は憲法→民法→労働契約法でした。
まとめ
就業規則のない労働条件も最低限ギリギリしか書いてない状態で契約した労働者が「それって私の仕事!?」と新たな仕事を拒否した場合、会社が対抗し得る根拠としては結局憲法にまでいきつきました。
しかし、憲法を盾に新しい仕事をやってもらうのはやはり難しいでしょうね。就業規則を用意しておくことを強くお勧めします。
就業規則の作成、点検には、専門家である社会保険労務士にご相談ください。
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