裁判の傍聴に行ってみた話
前橋地方裁判所高崎支部の裁判の傍聴に行ってきました。
刑事事件
本当は民事がよかったのですが、当日の傍聴表には刑事事件しかなかったので、刑事事件にしました。
判決と審理と新件がありまして、迷わず新件にしました。
被告人は外国人。名前からしてベトナム人と思われます。
事件名は、「出入国管理及び難民認定法違反、道路交通法違反」となっていましたので、オーバステイかなと思いました。
オーバステイした元技能実習生が、自転車の乗り方で注意されたとかかな?と、朝傍聴表を見た段階では思っていました。
開廷
14時30分の開廷に、15分前には到着しました。
入ろうとしたら法廷は施錠されていました。
小窓からのぞくと電気はついているのですが、扉は施錠していて入れません。
待つこと少し、ガチャという音がして、開錠されました。
さっそく中に入ると、傍聴人はその時点では私一人でした。傍聴席の一番前、一番真ん中の席に座りました。
法廷には黒服を着た若い男性と、スーツを着た若い女性がいました。
ひな壇の上から二段目に座っているので、多分書記官さんだと思います。
あとで、女性の方は通訳だと分かりました。黒服を着た若い男性だけが、書記官だったようです。
すぐに弁護士さんが入ってきて着席、その後、開始10分前には被告人が両脇をがっちり制服警察官二人に挟まれて入ってきました。
5分前に検事席に風呂敷を持った検事さんが着席。
ところでなんで検事さんはいつも風呂敷なんでしょうね?水玉の、おしゃれな風呂敷でした。私と同年配か、少し若い感じの男性でした。
一方弁護士さんは私より10歳くらい若そうな男性。
二人とも眼鏡をかけていて、よく似ていました。兄弟?と思うくらい。
でも、あとで裁判中の話し方を聞いていて、全然似ていないと思いました。検事さんは早口でぼそぼそしゃべるのに対し、弁護士さんは「えっと」「あの」という言葉がちょいちょい入ります。でも検事さんよりずっとやわらかい、割とゆっくり目のしゃべり方でした。
裁判の様子
法廷の一番高い壇の席の後ろに観音扉があって、そこから時刻通りに裁判官が入ってきました。
誰も何も号令をかけないのですが、一同起立して礼をして着席しました(もちろん私も)。
裁判の進行はすべて裁判官が取り仕切っていました。私より10も年上に見えましたが、ひょっとすると私と同い年くらいかも?と思われる男性です。
検事さんの話す事件の概要を聞いてびっくり、道路交通法違反は無免許で普通自動車を運転したことだったようです。
自転車ではなかった・・・・。
本人は、無免許運転がなぜ悪いかよく分かっていないようでした。検察官が「なぜ日本の法律では車は運転免許がないと運転できないのか知っていますか?」という質問に、「群馬では車がないと不便だからです」というとんちんかんな答えをしていました。もう一度、検察官が同じ質問をすると、今度は「よくわかりません。日本の法律は難しいです」と答えていました。
やはり元技能実習生でした。3年目のときに実習先を逃げて、その後1度入管に出頭して短期滞在の在留許可を受けていましたが、今年の夏にそれも切れて、オーバステイとなっていたようです。
社労士として、興味を持ったのは、弁護士さんからの本人への質問のときでした。
弁護士さん(以下、弁)「ベトナムでは何の仕事をしていましたか」
本人(以下、本)「軍隊です」
弁「給与はいくらくらいでしたか」
本「1万円くらいです」
弁「日本では何の仕事をしていましたか」
本「農業です」
弁「給与はいくらくらいでしたか」
本「15万円から17万円くらいでした」
これを聞いて、びっくりしました。
私の経験では、実習生は額面の金額を言いません。いつも手取りの金額を言います。
手取りで15万円から17万円だったということは、額面では18万円から20万円くらいだったと思われます。宿舎の寮費がいくらかにもよる(給与から控除されるので)んですが、ひょっとしたら21万~22万円だった可能性もあって、すごい!と思いました。
農業の職種でそれだけ稼げるのって、かなりすごいことです。群馬だと最低賃金がもともと低いですし、農家さんが技能実習生を雇う場合、たいてい最低賃金で雇います。それなのに額面で20万近く稼げていたのなら、この実習先の農家さんは相当大手だったんじゃないかと思いました(ハウス栽培もして年中農作業が発生し、6次産業化しているような農家さん)。
それとも、この質問は当然あらかじめ弁護士さんと打合せしていたでしょうから、弁護士さんの指示で額面での数字を言ったのでしょうか?・・・多分そうだろうという気がしてきました。ベトナムでの給与に比較して日本ではこんなに稼いでいたという文脈での数字ですから、手取りではなく額面を普通言うでしょうね。額面で15万円だったなら、群馬では普通です。
正直すぎる元実習生
元監理団体職員としてショックだったのが、次の質問です。
弁「日本には何のために来ましたか」
本「お金を稼ぐためです」
技能を学ぶためではないんかーーーーーーい(←フォント72ptくらいのBoldで)。
弁護士さんも検事さんも裁判官も、もちろん本人も、誰もこの答えに違和感を感じていないようでして、技能実習法をさんざん学んだ身としては、ショックでした。
外国人技能実習機構の監査課の人が聞いたらどう思うのでしょうか。
日本の政策的には技能実習生はお金を稼ぐ目的ではないはずなんですけどね・・・・。
ベトナムに帰ったら、農業をやるそうです。別に農業技術を学んだからではなく、親がもともと農業をやっているからのようです。
実習先を逃げ出したのは、3年間の技能実習が終わったら帰国しなければならないから、もっとお金を稼ぎたかったからだそうです。
どこの監理団体か知りませんが、一般監理団体ではなかったのかな?と思いました。もし一般監理団体だったのなら、3号の試験を受けさせたはずです。試験に受かればさらにもう2年、在留資格を延長できるのですけどね?試験に落ちたのでしょうか?だとしたら自業自得だという気がします。
全体的に、被告人はまだ幼く、短絡的で、自分のことしか考えていない印象でした。24歳という年齢からして、無理もないかなと思いました。私自身が24歳だったときのことを考えれば、彼のことを悪く言えないです。私だって若いときは自分のことしか考えていなかったですから。
しかし、無免許運転で現行犯逮捕されるまで、罪を犯しているという意識が乏しかったようなのは怖いと思いました。被告人は日本の標識の意味が分かっていないとのことでしたから、もし子どもが事故に巻き込まれるようなことがあったらと思うと、その前に逮捕してくれて「警察、グッジョブ!」と思いました。
閉廷
閉廷時に一同起立して礼をする段階で、被告人が不規則発言をしました。「判決の後、入管に入るのでしょうか?」という質問です。不規則発言に困惑顔の裁判官は、「それは弁護士さんに聞きなさい」と言っていましたが、その発言を聞き終わる前に、私は法定を出ました。
私以外にも傍聴人の方がいたのですが、その方が出て行ったので、私も出ました。これ以上見てもしょうがないと思ったからです。
人が腰縄をつけて手錠をはめられる姿は、見ていて気持ちのいいものではないと思いましたし。
感想
初めて裁判を傍聴しました。裁判所について、いろいろ考えました。
本日の1号法廷の傍聴表を見ると5件ありまして、裁判官はどれも同じ人でした。ということは一人で一日に5件も見るの!?大変そう・・・と思いました。書記官は3件を一人、2件を一人で分担してありましたが、裁判官は一人だけです。裁判と裁判の合間に、判決文を考えたり、証拠書類を見たりしているのでしょうか。
弁護士さんは、外国人の被告人からちゃんと報酬はもらえるのでしょうか?被告人にはお金がなさそうですし、国選弁護士人かな?だとしら、国からお金がでるのですよね。
検事さんのかかえる風呂敷の中身は証拠でいっぱいでした。甲号証は12号証まで、乙号証は4号証までありました。聴き取りした内容を文字に書き起こしたものばかりでなく、防犯カメラの画像や、無免許かどうか照会した結果もありました。本人が全面的に罪を認めている事件でも、あれだけの量の証拠をそろえないといけないのですね。もし本人が否認したらどうなるのか・・・大変な業務量だと思います。
制服警察官が二人がかりで被告人を連れてくるのも、とても気を遣う業務ですね。言葉が通じない外国人ですから、なおのこと大変だと思います。
傍聴人席には、多分私服警察官と思われる男性もいました。もしかしたら被告人を逮捕した警察官なのかもしれません。裁判でいきなり被告人が捜査段階とは違うことを言い出すこともあるので、心配して傍聴に来たのかもしれません。
人を裁くのにはとてもたくさんの人手と時間がかかるという、当たり前のことを知りました。
求刑は懲役1年でした。判決はまた別の日に出されるようです。前科がない人ですので、多分執行猶予3年がつくのだと思います。
また判決の日に聞きに行こうと思います。
-
前の記事
勤務間インターバル制度 2022.11.21
-
次の記事
カレントフォルダ配下のTree情報をテキストに吐き出すバッチ【bat】 2022.11.23