15分単位の労働時間管理について

パートタイムで働いていたとき、労働時間が15分単位でした。

当時のルール

当時勤めていた会社では、労働時間を15分単位で管理していました。会計ソフトが15分単位でしか対応していないからという理由でした。例えば朝9時1分に出社した場合、その日の始業時間は9時15分になりました。14分間の労働がなかったことにされてしまうので、必然みんな1分前とか、定時ギリギリの出社になっていました。

ところが私は子どもの送り迎えの都合でそうそうちょうどよい時間にはならず、早すぎたり遅すぎたりしました。

たまたま早く会社に着いて8時46分だったときは、もうとにかく時間なんてどうでもいいからさっさと今日のノルマを片付けて子どもたちのお迎えの時間までに終わらせたい一心で、さっさと仕事を始めていました。この場合、9時から始業扱いになりますので、14分間はワークしているのにノ-ペイです。

まだ社労士の勉強を始める前でしたし、幼い子どもを抱えて短時間しか働くことができない自分に引け目を感じていたので(今なら引け目を感じる必要はない!と強く主張できますが)、会社の言う通りに時間をまるめて申告していました。

ところで、こういった労働時間の管理の仕方は、もちろん違法です。

賃金全額払いのルール

労働基準法に直接”1分単位で管理しろ”などとは書いてありませんが、賃金全額払いのルールがあります。「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」というものです(労基法第24条)。1分単位とは書いてありませんが、「全額」がたとえ1分であっても切り捨てずに支払うことを意味しています。したがって、15分単位で切り捨てていては賃金を全額支払っていることになりません。

勘違いはどこから

ところで、社労士になってからいくつかの企業を訪問し、労務管理を拝見させていただく機会がありました。その過程で、この15分単位(ひどいところは、30分単位)で切り捨てている企業がありまして、そのたびに「それは違います」と申し上げてきました。なぜこのような間違った解釈が流布してしまったのか、ちょっと調べてみましたが、原因は見つかりません。

しかし、心当たりはあります。

基発第150号と呼ばれる、労働局長から発せられた超巨大な通達がありまして、労基法をどう解釈するかをQ&A形式でまとめたものです。

その中に、<賃金計算の端数の取扱い>という項目がありまして、次のように書いてあります。

賃金の計算において生じる労働時間、賃金額の端数の取扱いについては次のように取り扱われたい。

1 遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理

 5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットをするというような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について、賃金の全額払の原則に反し、違法である。なお、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として、法第91条の制限内で行う場合には、全額払の原則には反しないものである。

2 割増賃金計算における端数処理

 次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び法第37条違反としては取り扱わない。

(1)1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。

(2)1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。

(3)1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、(2)と同様に処理すること。

昭和63年3月14日基発第150号

漢数字をアラビア数字に直してあります。下線は筆者。

1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合の処理の仕方を説明したものです。15分単位を切り捨てる運用は、この通達が何か影響しているのではないかと推測しています。もちろん、通達に書いてあるのは1か月の時間外等の合計に1時間未満の端数が出た場合についてですから、毎日の労働時間の合計に15分未満の端数が出た場合の話ではないのです。しかし、これ以外に根拠となりそうなものを見つけることができませんでした。

注意しておきたいのは、通達にあるのはあくまで「1か月」の合計である点と、合計してよいのは通常の労働時間ではなく、時間外労働等の時間である点です。時間外労働については1か月単位で端数処理が認められていますが、通常の労働時間については「5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットをするというような処理」は違法だとはっきり書いてあるとおり、働いた分はちゃんと支払わなければ全額払の原則に反し、違法なのです。

今払うか後で払うか

そうは言っても、今さら運用を変えられないという企業もあるでしょう。その場合、私が言うようにしているのは、「今払いますか?後で払いますか?」ということです。

「今払っておけば正当な対価を労働者に支払うだけで済みます。しかし、払わず、このまま切り捨ての運用を続けた場合、労働者から訴えられて法廷闘争に持ち込まれたら、過去2年分をさかのぼって支払う羽目になり、さらに、裁判所が命令した場合は付加金として、その同額を支払わないといけなくなります、つまり後で払う場合は倍返ししないといけなくなるのです。どっちがよいですか?」と。

過去2年分のところは2020年に法改正が入りまして、今現在では3年分さかのぼれることになっています。そうすると、さらに使用者にとっては不利です。

それでも「訴えるような労働者はいないよ!」と言う企業には、労基署の臨検が入る可能性をお伝えするようにしています。現在労基署への通報は匿名で簡単にできます。ホームページに通報サイトがあり、必要事項を記入して送信を押すだけです。労基署から是正勧告や是正命令をもらったら、いやおうなく全員分の給料を見直して払うことになります。これは相当煩雑な計算となります。私もいくつかの企業で計算を手伝ったことがありますが、もう二度とやりたくない大変な作業でした。

労基署への通報フォームへのリンクをこちらに載せておきます。使用者側の方も、一度目を通しておくとよいと思います。

労働基準関係情報メール窓口

労働者側に証拠をそろえる義務がある

ところで、未払い賃金を請求する場合、労働者側に証拠をそろえる義務があります。

日々の労働時間の管理は使用者の義務ですが、その労働時間管理に異をとなえて未払いを請求するのであれば、使用者の労働時間のどこがどう違法なのかを、訴える側が証拠として提出しないといけないのです。

私は労働者の方には日々労働時間を記録することをおすすめしています。カレンダーに実際に働いた時間を書き込むだけでもよいです。その際、合計労働時間数だけではなく、始業時刻、終業時刻もメモしてください。休憩があるのなら、それも開始時刻と終了時刻を記録しておきます。

最もよいのは会社が管理しているタイムカードやICカードの記録ですが、入手が難しければ、自分で日々労働時間管理ソフトを使って記録するのも一つの手です。

私はToggl Trackというツールを使っています。もともとは学習の記録のために使っていましたが、労働時間の記録にも使えるなと思い、使っています。パソコンでもスマホでも両方使えて便利です。これ以外にも「労働時間 アプリ」で検索するとたくさんヒットします。

Toggl Trackへのリンクを載せておきます。英語サイトです。

Toggl track