年次有給休暇を「買い上げてくれ!」と要求してもよいか
年次有給休暇の付与日数が年10日以上の労働者に対しては、年間5日以上の年次有給休暇の「確実な取得」が使用者に義務付けられ、早3年が経ちました。
2020年調査では調査計の年次有給取得率は56.3%であり、「働き方改革関連法」により年5日の年次有給休暇の取得義務付けが施行される直前の2019年調査と比較すると、3.9%ポイントの大きな上昇となっている。
令和3年版 労働経済の分析 -新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響-> 第1-(3)-7図 年次有給休暇の取得率の状況①
・・・・だそうです。だいぶ取得率は以前より上がったようですが、それでも半分程度です。
年次有給休暇には時効があり、付与から2年経過すると消滅します。しかし、実際問題皆さんどうですか?私は勤務時代、全く有給休暇を使う暇がなかったです。
子どもが熱を出したとき、自分がインフルエンザにかかったとき用に大事にとっておき、結局消化しないまま2年経過して使わず仕舞なんてこともありました。だから、年休が余ったときに買い上げてくれたらいいのになあ!とずっと思っていました。
これ、労働者から要求してはだめなんでしょうか?「年休を使っている暇がない。もうすぐ2年経つ分だけでも金銭に変えてもらえないか!?」って。
年休買い上げに対する行政解釈
この点、次のような行政解釈が出ています。
年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ乃至請求された日数を与えないことは法第39条の違反である。
昭和30.11.30基収4718号
年次有給休暇は休暇を現実に与え、「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることを目的とするものである」(安西愈「新しい労使関係のための労働時間休日休暇の法律実務全訂七版」(以下安西愈本と略)1059頁。)から、お金に換えて休暇を与えないなんてことは当然労働基準法の趣旨に反する訳です。
したがって、労働者が使用者と約束して年休を買い上げることを予約し、かかる予約があることを理由に労働者から年休の請求があった場合に、それが法定休暇日数内であるにもかかわらず現実に休暇を与えないなんてことは、労基法違反となります。
しかし、年休の買い上げが違反になるのは、法定日数分につき、かつ、その有効期間内のものであって、それ以外であれば違反とはなりません。
違反とはならない年休買い上げのケース
法定を超える日数の年休
法定日数分がだめなら、法定付与を超える日数を付与している場合には、違反とはなりません。年20日付与が義務とされる人に、さらに5日付与して合計25日の年休がある場合に、その5日分を買い上げるケースです(昭和23.3.31基発513号、昭和23.10.15基収3650号)。
しかし、今日では労働時間短縮の上から好ましくないとされています(既掲安西愈本1061頁)。
時効で消滅した後の年休
また、2年経過して消滅した年休については、労使が合意して買い上げても違法とはなりません。すでに消滅した年休請求権ですから。
しかし、買い上げの金額が高額の場合、実質労働者の年休取得をためらわせることになりますから、法の趣旨としてはやはり好ましくないことになります(同安西愈本1061頁)。
退職により消滅した後の年休
さらに、退職時に消滅し行使できなくなる年休については、労働者の方から請求するのは当然にできるものではありません(消滅しているので)。しかし、使用者の方から消滅する年休を買い上げるのは労基法違反とはなりません。ここで注意すべきは、使用者が買い上げるのは任意であって義務ではない点です。また、法の趣旨としてはやはり好ましくないことです。
退職予定者の年休請求権の買い上げ
労働者が退職するときには事務の引き継ぎが発生します。しかし、労働者は消化できていない年休を使いたがるかもしれません。引き継ぎが完了していないのに年休を使われてしまっては業務の正常な運営を妨げるとなれば、使用者の時季変更権の行使が認められるでしょう。しかしその時季変更権も、労働者が在職中にしか行使できません。
労働者の年休請求権と、使用者の時季変更権がバッティングしたときに、会社としては本人を説得して納得を得て年休を調整するか、使用者の方から年休の買い上げを打診し、労働者と交渉するカードとするのはやむを得ないと考えます。しかしあくまでこの方法は引き継ぎをしないと業務の正常な運営が妨げる場合であって、そうでないなら会社は労働者の年休請求権を拒むことはできません。
また、労働者が年休を買い上げろと要求したとしても、会社は応じる義務はありませんのでご注意ください。
結論
結局労働者の方から年休を買い上げてくれという要求をしても、ダメってことです。年休はおとなしく使った方が得ですね。
昔働いていた会社では、年休の平均取得日数が法改正前から8日でした。中には年休消化率100%という猛者もいて、年休明けに休みをどう過ごしたか生き生きと話してくれたりして、職場に大変活気がありました。
一方、年休消化率がほぼゼロという会社にいたこともあります。そういう会社では長時間労働が常態化しており、働く人たちの表情は暗く、活気がありませんでした。
年次有給休暇は、労働者が病気やけがで使うのももちろんOKですが、旅行やレジャーなど余暇や家族と過ごす、友人と過ごす時間として使ってもらった方が労働者の心身の疲労回復、労働力の維持増進につながりやすいっていうのは、本当だなーと実感しています。ぜひ会社には、労働者の有給休暇取得を促進してもらいたいと思います。
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