【外国人技能実習生】有期雇用契約の期間満了前退職の取扱いについて

有期雇用契約者との雇用契約を期間満了前に解除することは、やむを得ない事由がある場合でなければ、認められていません(労働契約法第17条)。もし使用者が有期雇用契約者を期間満了前に解雇したとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その権利を濫用したものとして無効となります。この辺の運用は無期雇用の解雇よりもシビアだと言われています。

一方、外国人技能実習生には在留資格というものがあります。基本的には1年ごとに更新し、在留資格満了前に帰国するのがルールです。万が一在留資格が切れたのに日本に滞在していたら、オーバーステイといって、犯罪となります。

この二つのルールが見事にバッティングし、問題となったときがありました。コロナが蔓延し始め、空港が閉鎖され、帰国できなくなったときです。

帰国困難者となった外国人技能実習生たち

退職し、帰国の準備をする実習生たち

ある国の実習生たちは、契約期間満了が2020年1月25日でした。在留資格の終了日も1月25日でした。成田へ移動する時間や、宿舎を片付けたり、もろもろの役所の手続きを済ませることを考えると、ぎりぎりまで仕事をしているよりは少し早めに退職の手続きをとって、最後の給与の精算をした方がよいだろうということになり、退職日を1月20日(月曜日)としました。飛行機の予約は1月24日(金曜日)にとれました。

急に飛行機が飛ばなくなった

ところが、コロナが蔓延し、急に帰国便が飛ばないことになりました。飛行機はキャンセルとなり、実習生たちは帰国できなくなりました。

彼らは在留資格を特定活動に変更し、帰国便が再び飛ぶ日まで日本に滞在せざるを得なくなりました。

ハローワークで基本手当の受給申請

困ったのが、お金です。退職していますから、働いていません。お金をすぐに得ることができません。しばらくは日本で稼いだお金があるかもしれませんが、すぐに底を尽くでしょう。

そこで、ハローワークに通い、基本手当を受給する手続きをとりました。

ここで、問題が起きました。

退職日が有期雇用契約者なのに、雇用契約期間の終了日より前になっていることです。これをハローワークの担当職員は大変に問題視しました。

ステイオーバと有期雇用契約満了前の契約解除、どちらがより問題なのか

このときハロワに何度か電話で説明したのですが、全く聞く耳を持ってくれなくて閉口しました><

とにかく彼らにとって有期雇用契約満了前の契約解除は「悪」なんだなと感じました・・・orz

「契約期間が完全に終わってから退職ですと、もろもろの手続きがとれず、オーバーステイになってしまいますから!」

「銀行の口座を解約する手続きもとらないと、マネーロンダリングの温床になってしまうからと当局に指導を受けているから!そういう時間も退職後に確保してから帰国しないといけないでしょ??」

「1日か2日あればできる訳ではないですよ???彼らは車を持っている訳ではないし、成田に移動する時間も必要でしょうが!!」

ぜぃぜぃとしながら力説しましたが、結果的にはダメでした。ちゃんと紙で証拠として問題がないのを証明しなさいということで、「技能実習期間満了前の帰国についての申告書」(参考様式第1-40号)を提出することになりました。

参考様式第1-40号技能実習期間満了前の帰国についての申告書

参考様式第1-40号技能実習期間満了前の帰国についての申告書 – 外国人技能実習機構HPより

この書類はどういう風に使うかというと、まさに今回のケースのようなときに使います。普通は在留資格が切れる前に帰国しますので、そして在留資格は契約期間終了日とほぼ同日ですので、たいていのケースでこの書類の出番があるはずです。

退職の際、もろもろの書類と一緒にサインをもらい、会社で保管してもらいます。この書類は、万が一彼らが帰国できずにハロワ等で手続きをとる際、会社にとってやむを得ない事情での有期雇用契約期間満了前の退職であったことを証明する書類となります。

リリースが遅すぎ問題

ちなみにこの様式が正式にリリースされたのは、2020年4月3日です。

外国人技能実習機構運用要領改正箇所一覧令和2年4月3日改正より

・・・では、2017年10月(新制度の外国人技能実習制度開始)からこのときまで、帰国していた実習生たちにはこういう書類をもらっていなかったけどいいのか!?ということになりませんか?

外国人技能実習機構(厚生労働省、法務局)も、このコロナのときの帰国困難トラブルで初めて有期雇用契約者の期間満了前の退職が法的に大変問題があることを認識したんだろうなあと邪推しています:( •ᾥ•):

実を言うと、私も監査で企業に行ったときに、この辺の部分についてはノーチェックでした。特に気にしていませんでした><(社労士のくせに・・・)。

なぜなら、オーバーステイとなることの方がはるかに罪が重いと思っていましたので。

しかし、どちらの罪が重いか比較すること自体がナンセンスなのでした。どちらもダメです。

という訳で、2020年4月1日以降は、ちゃんと参考様式第1-40号を技能実習生に説明し、サインしてもらうように運用を変更しました。

旧法時代は問題とならなかった/新制度になってからできた問題

ちなみにこの退職日と在留資格のトラブルは、旧法時代は問題となりませんでした。旧法時代は退職後、在留資格が切れるまで日程に余裕がありましたので。

新法では在留資格と雇用契約期間が完全に一致しており、日程的な余裕がありません。

この辺のテクニカルな法律整備は、本気でやろうとすればできないことではないと思うんですけどね。

新制度になったとき、いろいろなことが大変よい方に進んだなと思いますが、この退職日と帰国日のずれについては新制度になったら運用しづらく、使い勝手が悪くなった点だと思います。