外国人技能実習生の実習実施者に対する令和3年の監督指導、送検等の状況が公表

2022年7月27日、外国人技能実習生の実習実施者に対する令和3年の監督指導、送検等の状況が公表されました。

毎年公表

この報道発表は、毎年夏頃発表されているもので、恒例となっているのですが、なぜか外国人技能実習制度にあまり詳しくなさそうなマスコミさんがたまに「外国人技能実習生の働く企業の7割で違反!」などと、センセーショナルな見出しで記事を書くことがあり、そのたびに「またか・・・」と思う次第です^^;

令和3年に、全国の労働局や労働基準監督署が、外国人技能実習生の実習実施者(技能実習生が在籍している事業場。)に対して行った監督指導や送検等の状況について取りまとめたところ、労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,036事業場(実習実施者)のうち6,556事業場(72.6%)とのことでした。

これを読んで多いか少ないか、すぐに分かる人は「通だな^^」と思います。

70%という数字

70%前後の数字は、毎年のことです。なぜか毎年7割になります。

私が監査に行っていたとき、ほぼ100%の企業で何らかの違反があったものです。

だから、初めてこの業界に入ってこの報道を見たとき、「7割?少なっ!おかしいだろ?後の3割は、監督官が手を抜いた?」と思ったものです。

外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(野口まとめ)

ちなみに、同じ頃同じように発表される、自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況では、ここ数年常に8割となっております。

自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(野口まとめ)

徐々に減ってきてはいるようですが、それにしても、外国人技能実習実施者に対してといい、自動車運転者を使用する事業場に対してといい、どうもお役所には数字的なノルマ(操作?)があるような気がしてならないのです。

でなければ、こんなに毎年似たような数字になる訳がない・・・というのが私の正直な感想です。

だから、マスコミさんが「7割!?多い!!」という記事を書くのは的外れだと思うのです。

主な違反事項の推移

主な違反事項は、令和3年では安全基準(労働安全衛生法第20条等違反)がトップとなっております(24.4%)。

令和3年主な違反事項

この中で3番目に多い、労働時間(労働基準法第32条違反)は、長らく実習実施者の違反のトップでした。

第32条違反というのは、36協定で協定した時間外労働の上限を守らなかった場合に多く指摘される違反です。

この労働時間違反の過去数年間の順位を見てみるとこの通りです。

労働時間違反の順位の推移(野口まとめ)

ずっとトップを走っていたのに、令和2年で2位に陥落し、令和3年には3位まで落ちています。

この令和2年に何があったかというと、外国人技能実習制度の運用要領の改訂がありました。

令和2年4月の運用要領改訂の内容 – 時間外労働45時間

令和2年4月の改訂で、これまであいまいだった時間外労働の上限について、はっきり月45時間までという上限が明記されました。そして、「月ごとの時間外労働を45時間を超えて延長する場合には届出が必要」と明記されました。たとえ36協定の特別条項が事業場にあったとしても、それだけではだめで、45時間を超えて外国人技能生に時間外労働をさせた場合は、さらに外国人技能実習機構に軽微変更届出を出す必要ができたのです。

これがなかなか効果てきめんだったようです。

私も、この軽微変更届出には苦しめられました。大嫌いでした。とにかく計算がめんどうでめんどうで・・・・。起算日が36協定の開始日なのですが、技能実習における月は入国日を基準に計画していますので、どうしてもずれが発生します。さらに、会社の賃金の締め日も異なりますから、とてつもなく集計が大変でした。

一応この軽微変更届は企業が機構に提出するタテマエでしたが、監理団体はその書類作成の指導をする立場でしたし、監査でもちゃんと指摘しないといけないので、必然監査する立場の私が計算する羽目になりました。いやあ、大変だった!

一番よいのは、外国人技能実習生に月45時間も時間外労働をさせないことなんですが、そうすると収入が減るので外国人技能実習生たちの不満がたまってしまいます。彼らは技能の移転というタテマエで日本に来ていますが、ホンネは出稼ぎですので、少しでもたくさん稼げる方がよいので、残業が大好きなんです。

ともあれ、要領で届出を厳しくした効果か、だいぶ労働時間違反は減りましたね。コロナが猛威を振るっていた年でもありますので、労働時間自体が減っていたのではないかという気もします。

一方、目立つのが安全基準違反ですが、こちらは例年20%前後で推移してきましたので、多くなったという印象はないです。労働時間違反が減ったから1位になっただけという感じがしています。

まとめ

今回厚生労働省が発表した外国人技能実習生の実習実施者に対する令和3年の監督指導、送検等の状況を見てみました。

労働時間違反が減っているのが印象的でした。

これからも、注意深くウォッチしていこうと思います。