「裁定請求書」から「年金請求書」へ

今回年金実務者研修を受けて一番驚いたのが、「年金請求書」の存在でした。知識が20年前で止まっている私の記憶では、「裁定請求書」と言う無味乾燥な書類だったはずで、それが今やこんなに分かりやすく、カラフルで記入しやすい書類になっていたとは!・・・と驚きました。

年金請求書日本年金機構HPより
私の記憶にある裁定請求書様式第101号(Waybackmachine:http://www.sia.go.jp/sinsei/nenkin/saitei/kinyurei_kihon.htmより)

年金請求書と裁定請求書はどう違うか

まずは手っ取り早く講師に質問してみました。

野口「年金請求書と裁定請求書とはどう違うのですか?」

講師「同じです」

そうか、同じですか。終了・・・いやいやいや、終わりません。

同じなのは分かるのだけど、法的根拠はどこにあるのかとか、いつから始まったのかとか、そういう背景を知りたかったのですが、講義中の短い時間でしたので再質問する時間もなく、そもそもこういったことは社会保険労務士であったら人に聞くのではなく自分で調べるべきだと思ったので、この質問はこれで終了しました。

そこで自分で調べてみました。

「年金請求書」の法的根拠

年金請求書の法的根拠は、国民年金法では施行規則第16条にあります。

法第16条の規定による老齢基礎年金(法附則第9条の3第1項の規定による老齢年金を含む。以下同じ。)についての裁定の請求は、次に掲げる事項を記載した請求書を機構に提出することによつて行わなければならない。

国民年金法施行規則第16条 裁定請求(太字部分筆者。以下略)

厚生年金保険法ですと、施行規則第30条です。

老齢厚生年金(厚生労働大臣が支給するものに限る。第32条の2、第33条の2、第34条の2、第49条の2及び第50条の3並びに次章及び第3章の3を除き、以下同じ。)について、法第33条の規定による裁定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を、機構に提出しなければならない。

厚生年金保険法施行規則第30条 裁定請求(太字部分筆者。以下略)

私の記憶が確かなら、この部分に改正はないです(これに続く各項目については細かい修正があったと思いますが)。

もともと裁定請求書のときから条文のこの部分はこの通りだったかと。

となると、どこかの段階で「裁定請求書」という様式の名称を「年金請求書」へと、内部解釈を改めたのかと思われます。

年金がもらえる人に年金請求書を送る歴史

年金がもらえる年齢になると年金請求書を送ってくれるサービスは、最初からあったサービスではありません。

社会保険庁時代の最晩年、2005年(平成17年)10月3日に始まりました。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/sia/infom/press/houdou/2005/n051003.pdf

この段階ではまだ「裁定請求書」だったことがうかがわれます。

ではいつ「年金請求書」になったのかというと、具体的な日付までは特定できませんでした。

しかし、およその日付までは特定することができました。

年金請求書は2007年10月17日までには完成した

Webで検索すると、まだ社会保険庁が解体する前、日本年金機構が成立する前の2009年9月4日に、「裁定請求書と年金請求書のちがい」という質問がありました。

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/5262208.html

社会保険庁が解体されて日本年金機構が成立するのが2010年(平成22年)1月1日ですから、その前からすでに「年金請求書」が存在していたことになります。

上記質問に対する回答は、次のとおりです。

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/5262208.html

この回答の中にある、”http://www.sia.go.jp/sodan/nenkin/jizen_q.htm”というURLは旧社会保険庁のホームページです。

旧社会保険庁のホームページは残っていませんが、Waybackmachineというインターネット情報をアーカイブしてくれるサイトに断片が残っていました。

Waybackmachineより、旧社会保険庁のホームページの裁定請求書事前送付に関するQ&A

このQ&Aのページの、Waybackで記録された一番古い記録は2005年(平成17年)11月24日です。

この中に「裁定請求書(ターンアラウンド用)(pdf:740kb)」というリンクがあります。

クリックしてみると、次のようなPDFが開きました。

https://web.archive.org/web/20060918070120/http://www.sia.go.jp/sodan/nenkin/jizen/turn_saiteiseikyusyo.pdf

このPDFのWaybackでの記録日は2006年(平成18年))9月18日です。

この段階ではまだ「裁定請求書」だったようです。

では、いつ「年金請求書」に変わったか、Waybackに残されたPDFを記録された順に一つ一つ見てみました。そうしたところ、2007年(平成19年)10月17日に記録されたPDFで「年金請求書」が出現しました。

https://web.archive.org/web/20071017163502/http://www.sia.go.jp/sodan/nenkin/jizen/turn_saiteiseikyusyo.pdf

ということは、遅くとも2007年(平成19年)10月17日までには「年金請求書」ができたということです。

なぜ名称を変えたか

また、なぜ「裁定請求書」でなく「年金請求書」と言う名称に変えたのかと言うと、これはもう言わずもがなだと思うのですが、分かりやすさからだと思います。

普通の生活をしていて、「裁定」なんて言葉は使いませんものね。

日本年金機構 第1回運営評議会(平成22年2月23日開催)お客様の声及びサービス改善の取組状況についてより

日本年金機構になってからの資料ではありますが、お客様向け文書を改善しようと取り組む姿勢がはっきり示されていました。

まだどこかの資料だったか失念しましたが、消費生活アドバイザーからの助言ももらって、文書を見直ししたそうです。

まとめ

以上、「年金請求書」がいつ生まれたか、紹介しました。

結局「裁定請求書」と「年金請求書」は機能の面では違いはないのですが、生まれてきた歴史的背景は異なります。

日本の年金制度は「消えた年金問題」を経て、大きく変わったなと思います。

社会保険庁が解体され、日本年金機構が成立したときを境に、日本の年金制度は真によいものに変わろうとしているのだと思います。その一つが、「年金請求書」だと思います。