変形労働時間制は法廷では容易に否定される
変形労働時間制について知りたいことがあり、判例を調べていて気が付いたのですが、変形労働時間制は法廷では容易に否定されてしまいますね。
協定がない事例
今日見た判例では、協定書が存在していませんでした。「1年単位の変形労働時間制」と主張しているのに、です。
将来見返したくなるであろう自分のためのメモ→東京地裁平成29(ワ)第1565号令和元年7月24日
1か月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制両方とも否定された事例。就業規則に定めもなし。
過半数代表者が民主的に選ばれていない事例
もう一つ、今日見た判例では、過半数代表者が民主的に選ばれていないということで否定されていました。
その会社では過半数代表者が何年も同じ人(Dさん)だったのですが、原告の外国人技能実習生たちはそもそもその人が過半数代表者だとは把握していなかったし、1年変形の協定届にはある年には「挙手による」とか別の年には「投票による」とか書いておきながら、同時に提出された36協定届では別の手法が書かれていて選出方法に一貫性がなく、証言人も記憶があやふやで本当に民主的に選ばれたのかどうか曖昧でした。
その結果裁判所は、過半数代表者が民主的に選ばれていない→労使協定は無効→1年変形も無効→通常の労働時間制で賃金再計算→未払い賃金を支払えという判決を下していました。
被告(会社)側は証拠として、従業員の大半がDさんが過半数代表者だと認識しているという証言を集めて提出したようですが、みんなが認識していても選出方法が無効ならその人は過半数代表者としてダメという論理で否定されていました。
将来見返したくなるであろう自分のためのメモ→東京地裁平成30年(ワ)第17285号令和3年10月14日
運用で否定された事例
変形労働時間制の判例で有名なのがJR西日本事件です。大内伸哉「最新重要判例200労働法」にも載っています(第6版102p)。
これは運用で否定された事例です。いったん特定された労働時間を頻繁に変更していた場合、否定されやすくなります。
1年単位の変形労働時間制については、社労士が給与計算したり、顧問としてバックでしっかりサポートしていないと、正しい導入も運用も無理だと私は思っています。要件が複雑すぎるし、計算も複雑です。特に清算は、血反吐が出そうなくらい面倒くさいです。あのめんどくさい清算を、正しく計算している給与担当者さんを私は見たことがありません。そもそも、精算が必要だという知識すらないことの方が多いです。入退社が多い企業で1年変形は導入しないでほしいと思います。
1か月変形労働時間制についても、ぎりぎり企業さんだけで運用できるかもしれませんが、やはり社労士のサポートが必要だと感じています。
まとめ
実は、私は裁判で変形労働時間制が認められた事例をいまだに一つも見つけられていません。今のところ私が見た判例では、すべてで否定されています。
変形労働時間制は否定しやすいのだと思います。要件が複雑ですし、運用も難しいです。
もし変形労働時間の導入を考えている企業さんがありましたら、ぜひ社会保険労務士にご相談をお願いします。
-
前の記事
1年単位の変形労働時間制における「週」とは 2022.09.12
-
次の記事
締日をまたぐ週の法定時間外労働の計算【一年変形の場合】 2022.09.14