障害基礎年金本来請求の診断書3か月の根拠

障害基礎年金を本来請求(「障害認定日請求」に○)した場合、添付する診断書は原則として、障害認定日以後3か月以内の現症が記載されているものが必要ですという説明を窓口でしてきましたが、これの根拠がないということを調べ始めて、ようやく私なりに結論が出ましたので、紹介します。

聴診器を使う医師のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20130233059post-2472.html

根拠となる法律はない

結論から言うと、「3か月以内」の根拠となるような法律はなかったです。

でも、通達はありました。

社会保険庁年金保険部業務課長通知です(昭和52年7月15日庁業発第844号)

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1273&dataType=1&pageNo=1

裁定請求書には、初診日から一年六月を経過した日における障害の状態を明らかにする診断書(原則として、初診日から一年六月を経過した日以後三月以内の現症が記載されているものをいう。以下同じ。)を添付させること。


社会保険庁年金保険部業務課長通知 昭和52年7月15日庁業発第844号(太字とハイライトは筆者)

Web情報

Web上ではすでにこのテーマで詳しく論じたページがありました。こちらです↓

障害認定日時点の診断書は「3ヶ月以内」じゃないといけないの? – 障害年金なび –

https://www.shougai-navi.com/intro/id000393.html

私の記事より数倍役に立ちますので、ぜひご覧ください。

上記記事の中で一つの裁判が紹介されています。

東京地裁平成25年11月8日平成23(行ウ)365号 障害基礎年金不支給決定処分取消請求事件といいます。

障害認定日当時の診断書を、当時診療したわけではない別の医師が作成したものでも有効となるか争われた裁判なんですが、この裁判の中で、被告(国)は、3か月以内の診断書が必要となる根拠を通達レベルでしか提示できませんでした。

その通達が、先に挙げた社会保険庁年金保険部業務課長通知(昭和52年7月15日庁業発第844号)です。国は、法的根拠の証拠をとうとう最後まで提出できなかったのです。

判例

上記Web情報にあった東京地裁の裁判記録を取り寄せましたところ、なかなかおもしろかったです。

一番おもしろいと思ったのが原告側の主張のこの部分です。引用します。

4 当事者の主張の要旨

(1)原告

ア 障害の程度の認定資料について

国民年金法は、障害基礎年金の裁定請求において医師の診断書を提出することを要件としておらず、国民年金法施行令4条の6別表に定める障害等級の状態に該当するか否かを判断するに当たり医師の診断書の記載によるべきことを定めた法の規定はない


東京地裁平成25年11月8日平成23(行ウ)365号 障害基礎年金不支給決定処分取消請求事件(太字とハイライトは筆者)

これを読んだとき「え!うそ?!そうだっけ?」と国民年金法を読み直しました。

・・・確かに、要件としていませんでした。

すごいな!弁護士さんって。ここまで刺激的な文章を書いてしまうのですね。

で、判決はほぼ原告側の主張を認めたものとなっています。

判決文の該当箇所を引用します。ちょっと長い一文になっていますが、重要です。

上記のような国民年金法施行規則の趣旨に照らすと、裁定請求書は、原則として、その障害の状態について、その当時、裁定請求者の診療に実際に関与した医師又は歯科医師が作成した診断書又は診療記録を提出することを求められることとなるが、上記規程の定めは、裁定機関の認定判断の客観性・公平性を担保する手段として上記の書類の提出を求めたものにすぎないことからすると、裁定請求者が提出した診断書又は診療記録が、障害の状態が問題とされる当時において裁定請求者の診療に実際に関与したことのない医師又は歯科医師により作成されたものである場合であっても、それが故に当該診断書等が上記規則にいう「診断書」に該当しないとして障害の判定を行わないとすることは相当ではなく、裁定請求者が当該診断書等に加えて提出した他の資料が一般的な客観性と信用性を有するものと評価することができ、かつ、それらが当該診断書等を補完するものとなり得ると認められるのであれば、当該診断書等とその他の資料の提出をもって、上記規則にいう「診断書」の提出があったものとして取り扱い、当該診断書等の具体的な信用性を吟味した上、障害の状態が問題とされる当時における障害の程度の判定を行うべきものと解することが相当である。


東京地裁平成25年11月8日平成23(行ウ)365号 障害基礎年金不支給決定処分取消請求事件(太字とハイライトは筆者)

診断書は裁定機関の判断の客観性・公平性を担保する手段にすぎないこと、提出された診断書が障害認定日当時診療に実際関与したことのない医師が書いたものであってもそれだけで障害の判定を行わないのは相当でないこと、追加で提出された他の資料で補完できれば障害の程度を判定するべきであることを述べています。

この裁判ですごいなと思うのは、上記のような判断をした上でさらに、裁判官が障害の程度まで判定してくれている点です。

上記判断の中にあるよう、診断書に加えて提出された資料の具体的な信用性を吟味し(学校の先生の証言や母親の申立書に信用性があると判断)、診断書の中身の信用性を吟味し(診断書「d できない」となっている部分について被告(国)は「b 自発的にできるが援助が必要」に該当すると主張するも、裁判所は「c 自発的にはできないが援助があればできる」と認めるなど)、最終的に「国民年金法施行令別表の2級16号に該当するものであったと認められる」としています。

行政につっかえして「判定しなおせ!」ではないんですね。障害認定までできてしまう裁判官ってすごいな!と思いました。

なおこの裁判については、尾林さんという弁護士さん(上記裁判を担当した方)が詳しく記事をかいていますので、興味のある方は読んでみてください。

国民年金法施行規則における「診断書」の意義 -賃金と社会保障No.1607(2014年4月上旬号)弁護士尾林芳匡

↑情報過疎地である秘境グンマーでは入手できず、国会図書館に依頼しました。2週間くらいで届きました。

社労士さんのブログ

この地裁判決のもととなる障害基礎年金の行政手続きを担当なさった社労士さんが、加賀佳子さんという方で、尾林さんの記事で紹介されていました。

こちらです↓

障害年金の請求を応援する社会保険労務士のブログ – 加賀佳子社会保険労務士

https://ameblo.jp/kako-sr/entry-11714978465.html

現在この↑Amebaブログは凍結されているようでして、更新はありませんが、受任時から裁定請求にいたるまで、それから審査請求、再審査請求、提訴から判決までの経緯が詳しく紹介されており、とてもおもしろい読み物となっていますので、ぜひご覧ください。

このブログの中で、「うわあ・・・」と焦ったのが、

年金の請求書には、「障害認定日請求」「初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」「事後重症請求」のいずれかに丸をつける欄があります。
ご家族は、このどこにも丸をつけた記憶はなく、市区町村の窓口では「出すだけ出してみましょうか」とだけ言われたそうです。
その足で一緒に窓口に行き確認したところ、書類はすでに管轄の社会保険事務所(当時)に回送されており、役所の方の手により「事後重症請求」に丸がつけられている状態でした。どうやらそのまま回送したところ、社会保険事務所からどれか選ぶように言われ、この書類ではやむを得ないと、勝手に事後重症請求にしてしまったようです。

この請求の種類というのは、年金請求書の中でとても重要な部分です。
本来であれば、まずはご家族にきちんと説明し、確認する必要があります。
請求の種類に勝手に丸をつけることなど、あってはならないことです。

https://ameblo.jp/kako-sr/entry-11714978465.html

書類の記入漏れ・・・・確かに、私も窓口事務をやっていた当時、何回も直面しました。

受付のとき気が付いて窓口でお客さんに「こちらに丸してください」と説明できればよいのですが、障害基礎年金の裁定請求は添付書類が多いので、チェックに時間がかかります。かといって窓口業務はそれだけをやっていればよい訳でもなく、次から次へとくる市民に対応が必要なので、焦って見逃してしまったのであろうなあと、自分ことのように冷や汗が出ました。

幸い、このりっぱな社労士さんが社会保険事務所にかけあって受け付けはそのまま、書類だけ差し替えるという力技をしてくださったので、本来請求にもっていけたようです。本当にすごい社労士さんだなと思います。

まとめ

以上、障害基礎年金の本来請求の診断書が3か月以内について、調べたことをつらつら書き連ねました。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。