賃金支払の五原則【一定期日払】

賃金支払には5原則あります。賃金は、①通貨で、②直接労働者に、③その全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないというものです(労働基準法24条)。このうち、⑤の一定期日払について、平日朝8時半から10分間だけTwitterスペースで放送されている「社実研」で話題になりました(20221006)。締日はそのまま、支払日を10日から15日に変更する場合、どのような配慮が必要か?というものです。

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まずは周知と就業規則の変更

まずは従業員に周知することが必要です。

周知の方法は、朝礼やメールなど、普段から会社で行っているコミュニケーションツールを使うのがよいでしょう。

あわせて、就業規則の変更が必要となります(就業規則の絶対的記載事項の一つです。労働基準法89条)。

就業規則の変更は、単純に賃金の支払日付だけを変更するのであれば特に専門家を頼る必要もないでしょうが、不安でしたらインターネットで検索して、就業規則の専門家である社会保険労務士に頼むのがよいと思います(3万円程度で受けてくれるところもあるようです)。気をつけないといけないのは、労働基準法90条に定める手続きに沿って変更しなければならないということです。具体的には、変更箇所について労働者の過半数代表者から意見を聴取しなければなりません(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合)。

この過半数代表者の選任をおろそかにしてはならないことは、以前書きました。くれぐれも会社にとって都合の良い人を指名して過半数代表者にしないでください。たとえば、一番在籍年数が長い人を選んで過半数代表者としてはいけません。

過半数代表者を労働者たちに選んでもらうことは、やり方さえ工夫すればお金がかかりません。ここで手を抜くと、のちのちもっと大きなトラブルとなったときに足元をすくわれます。どうか手を抜かず、正しい選び方をしてください。

支払日を変更する月には2回支払うとよい

いざ支払日を変更する月になりましたら、社実研では次のようなやり方が紹介されていました。

  • まずは、10日にいつも通り全額を支払う。
  • 次に、15日(新しい支払日)に既往の労働分(何日分の日数とするかは応相談)を支払っておく。
  • 翌月の15日は、既に支払った分を除く賃金を支払う。

このやり方はなかなか手がたい、よいやり方だと思いました。

その月と翌月は、給与計算担当者の方は大変だとは思いますが、労働者からの不満は減らせると思います。

なお、行政解釈では次のように言っています

賃金の支払日は、本条(注:24条)第二項の毎月払の原則又は労働協約に反しない限り、労働協約又は就業規則によって自由に定め、又は変更し得るものであるから、使用者が事前に第九〇条の手続に従って就業規則を変更する限り支払期日が変更されても本条違反とはならない。

令和3年版労働基準法(労働法コンメンタール)368p

が、支払日を前倒しに変更するならともかく、後ろ倒しに変更する場合は当然労働者たちのさまざまな支払の予定を狂わせることになりますので、いくら行政が本条違反にならないとは言っていても、特に配慮をせずいきなり支払日を遅らせたら不満は出ることになるでしょう。

よって、個人的には社実研で紹介されたやり方をおすすめします。

労働者たちから同意書をもらっておくべきか

労働者たちから同意書なり、なにか一筆もらっておくべきかという質問がありました。これに対しては不要であろうという回答でした。私も不要だと思います。

ただ、賃金の支払日は就業規則の絶対的記載事項ですから、就業規則のある会社でしたら就業規則を変更する必要があるでしょうし、就業規則がない小さな会社の場合は労働条件変更通知書といった体裁で支払日の変更を通知するのがよいと思います。

タイミングとしては賞与月がよいというお話もありました。賞与を支払うときの明細書と一緒に、通知書を入れておくのがよいそうです。

一定期日払のその他の注意事項

一定期日払においてよく問題となるのが、所定期日が休日に当たる場合の支払日の取扱いです。

行政解釈(令和3年版労働基準法)では「その支払日を繰り上げる(又は繰り下げる)ことを定めるのは、一定期日払に違反しない」(368p。太字とアンダーラインは筆者)と言っていますが、繰り上げるならともかく、繰り下げるのは労働者の不満がたまりやすいので、極力避けた方がよいでしょう。

実際、以前いた会社で、支払日の1週間前に「今月は休日と重なるから、支払日は翌開庁日ね」と言われ、困惑しました。さまざまな支払いの都合がありますので、もっと前に教えてもらいたいと思いました。結局その会社にはいろいろ不満が積み重なり、長くは在籍しませんでした。

まとめ

以上、賃金の5原則のうち一定期日払について、後ろ倒しに変更する場合どう配慮するか紹介しました。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。