日付をまたぐ夜勤者の有給休暇の処理
日付をまたいで夜勤となる者の有給休暇を処理する方法について、具体的な相談事例を紹介します。
ご相談内容
このような勤務予定で働いてもらっている従業員がいます。
開始時刻と終了時刻が同日の場合はよいのですが、二日間わたるような日(図では金曜日と土曜日と日曜日)にこの者が有給休暇をとった場合、有給休暇は2日分として処理するのでしょうか?その場合、有給休暇の賃金は2日分を支払わないといけないのでしょうか?
Webで調べたら、労働日とは0時から24時までの1日のことだとありました。だとすると、8月19日17時からの勤務を休みたいだけなのに、19日と20日の二日間も休まないとダメですか?でも、20日を休みにしたら、20日の17時からの勤務はどうなるのでしょう?そこは働いてもらいたいのですが。
私の考え
回答
9月19日金曜日の17:00から翌日深夜1時までの一勤務については、もともと想定されていた拘束時間8時間を含む任意の継続24時間を1労働日として取り扱い、年次有給休暇を1労働日付与したことにしてかまいません。
解説
この質問をしてきた使用者側の担当者はよく勉強されている方でして、
一般に付与すべき「労働日」とは、原則として暦日計算によるべきものであり、当日の午前0時から午後12時までの暦日24時間を意味している。
安西愈「新しい労使関係のための労働時間・休日・休暇の法律実務」全訂七版1038p
という、年次有給休暇の原則をご存じでした。さらに、
1勤務16時間隔日勤務や1勤務24時間の一昼夜交代勤務で1勤務が2暦日にわたる場合も同様に暦日原則が適用され、8割出勤の要件たる全労働日についても当該1勤務が臆する2暦日に労働日と計算され、年次有給休暇付与についても、当該1勤務の免除が2労働日の年次有給休暇の付与とされる(昭26.9.26 基収第3964号、昭23.2.13 基発第90号)
厚生労働省労働基準局編「令和3年版労働基準法」(労働法コンメンタール)640p
という、2暦日にわたる場合の付与方法までご存じでして(Webにあった?)、その上で今回のケースで2暦日分の有給休暇を付与しなければならないのか?という質問につながったようです。
ところが、上記コンメンタールで言っているのは16時間勤務や24時間勤務などの長時間勤務(しかも隔日勤務の場合)のことでして、今回の例(1日8時間程度で連続勤務)には当てはまりません。
コンメンタールではさらに、次のようにも言っています。
このように「労働日」も原則として暦日によることとなるが、8時間三交替制勤務の2暦日にまたがる交替番及び常夜勤勤務については、この原則を適用すると著しく不合理な結果となるので、解釈例規は当該勤務時間を含む継続24時間を1労働日とすることとしている(昭26.9.26 基収第3964号、昭63.3.14 基発第150号・婦発第47号)
厚生労働省労働基準局編「令和3年版労働基準法」640p
今回のケースはこちらに相当します。
という訳で難しく考えず、普通に19日の17時から20日深夜1時までの7時間15分の1勤務分を1労働日分の有給休暇取得として処理してもらえばよいと考えます。
問題点
それより問題なのは、週の法定労働時間40時間を超えている点ですね・・・。人手が足りないのでどうしてもこうなってしまうそうです(変形労働時間制はとっていません)。
毎回超過時間分を支払うことでなんとかやりくりしている(もちろん36協定も整備)そうですが、そうすると問題になってくるのが、年休手当の賃金です。
現在時給制であり、7時間15分の日に年休をとった場合は7時間15分で、8時間の日に年休をとった場合は8時間で、それぞれ時給単価をかけて手当を計算しています。
もともとの勤務予定表が無理な予定表(法定労働時間を超えたもの)となっています。その週の最終日まで予定通り働けば、4.25時間分は25%以上の割増を支払ってもらえる訳です。
しかし、年休をとったら25%の割増のない通常の時給単価となりますから、労働者によっては(あるいは取得した日によっては)割安感があり、不満を感じるかもしれません。
この点、コンメンタールに
平常日の2勤務分が免除されるにもかかわらず1労働日の年次有給休暇とされるのは妥当でないとの批判もあろうが、この場合とて、手当は一勤務分の平均賃金しか支払われないのであるから、この日に年次有給休暇をとるか否かは、結局は休息か所得かの労働者の選択に委ねれらることとなるので、さしたる不都合はないといえよう。
厚生労働省労働基準局編「令和3年版労働基準法」641p
などという、ちょっと参考になりそうなことが書いてありましたが、私なら「さしたる不都合はない」と楽観視はできませんね。
相談をもらったこの企業さんの場合、人手不足が深刻ですから、少しでも労働者の不満がないように配慮しておく方がよいでしょう。
コンメンタールが言っているからとか、労基法ではこうだからではなく、コンメンタールも労基法も最低限ぎりぎりの労働条件でしかなく、本当にそんなぎりぎりばかりにしていたら、労働者の不満がたまりやすいのです。
少しでも労働条件が良くなるような工夫をして、労働者の不満をとり、ひいては人材の定着を図る方が、結局会社のためになると思います。
そこで、私だったら、年次有給休暇の賃金計算の方法を見直すかもしれません。
どう見直すか・・・・それはだいぶ論点がずれてしまうので、ここでは割愛します。
もう一つ、就業規則に夜勤者の年休付与の方法をきちんと書いていないようでしたので、この点も問題です。休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項ですから、この機会に見直すのがよいでしょう(これまで有給休暇をとるものがいなかったため、処理の仕方があいまいだったそうです)。
まとめ
以上、2暦日にまたがる夜勤者の年次有給休暇について具体的な事例をもとに紹介しました。
もちろん相談者の個人情報を守るためや私の守秘義務のために、本事例はあくまでフィクションです。いろいろなことが脚色してあります。鵜呑みにしてはいけませんよ?
なお、参照している法律は記事掲載当時の最新の法律に基づきました。
何かのお役に立てば幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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