週40時間1日8時間という法の条文なのに、賃金チェックは日→週の順でしますよね。なんで?

労働基準法32条では1週40時間、1日8時間の順番になっているのに、賃金計算のときには1日単位でまずチェックし、次に週単位でチェックするという順番になっています。これはなぜなんでしょう。

法の条文

まずは法の条文。


使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法32条

第1項で週40時間、第2項で1日8時間の上限を規定しています。

このように、法の条文では週→日の順番です。

賃金の計算の順番

ところが、賃金を計算するときには、まず1日単位でチェックします。

1日単位でチェックして、もし法定労働時間を超えている日があればそれは割増賃金が必要な時間としてカウントアップしたりします。

次に、週単位で集計します。いったん1日単位で割増賃金が必要となった時間についてはこの段階では除きます(二重に計上はしません)。

これはなぜなのかが、ずっと疑問でした。

感覚的にはすぐ分かるのですが。

例えば週40時間のチェックを先にやった場合、次のような事例で、未払い賃金が発生してしまいますよね?

週のトータル労働時間は40時間の事例


本からの引用

この点、岩崎先生と森先生の本「労働時間管理完全実務ハンドブック」には次のようにありました。

我が国の法定労働時間は、①1週40時間、②1日8時間の原則で成り立ちます。労基法32条では「週(1項)→日(2項)」の順で法定労働時間を定めていますが、時間外労働の算定(カウント)は、その逆で「日→週」の順にチェックしていきますが、これは、1日単位の規制は、週単位の規制より一段小さな単位における規制であり、いわば週単位の規制の特別法に該当するものと解されるためです(東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」164頁)。

岩崎仁弥・森紀男「労働時間管理完全実務ハンドブック6訂版」134頁


これによると、週単位の規制が一般法であり、日単位の規制が特別法に該当するという解釈という訳です。特別法と一般法が競合した場合、特別法が優先しますから、日単位→週単位の順番になるということです。


これだけだとなんのこっちゃと思われるかもしれないので、さらに引用します。今度は、「岩崎・森」本で引用されていた、東京大学労働法研究会の本です。

1日単位の規制は週単位の規制より一段小さな単位における規制であり、いわば週単位の規制の特別法に該当するものと解される。したがって、1日単位での違法が成立する場合、当該労働が同時に週単位の規制の違反と見うる場合であっても法条競合であり、1日の法定労働時間の違反のみが成立することとなる。

東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」164頁

この後事例が続くんですが、当時は週46時間規制だったので、そのまま引用しても分かりづらいと思うので、ここでは週40時間の場合の事例に置き換えて説明します。

週40時間超えと1日8時間越えが両方同時に成立した事例[図1]

例えば、図1において土曜日の9時間目の労働①は同時に週41時間目の労働でもありますが、この場合1項違反と2項違反が同時に成立するのではなく、1日単位の2項違反のみが成立するそうです。

なぜならば、1日単位が1週単位の特別法だから。

一般法と特別法が競合するときは、特別法が優先するという我が国の法律のルールは、説明不要ですよね?

32条1項と2項は併合罪

ところが、32条の1項(週単位)と2項(日単位)とは、規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと、同条1項違反の罪が成立する場合においても、その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し、それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって、両罪は併合罪の関係にあるというという最高裁の見解があります(最高裁第3小法廷H22(あ)148号平成22年12月20日)。この裁判の話については以前記事にしました。

あれ、2項は1項の特別法ではなかったの??と混乱します。

この辺の理解と解説は、申し訳ないですが、私の手に負えません。

一般法と特別法の関係と、併合罪の関係とは相いれないものなのか、それとも両者は別の観点での話であって、両方とも同時に成立しうる考え方なのかは、分かりません。

あえて言うと、先に引用した本が平成2年の本、最高裁の判決は平成22年です。特別法云々という話が議論されていた当時、最高裁判決はまだ出ていなかったのですから、仕方がないでしょう。

現在の東京大学労働法研究会の面々がこの点をどう解釈するのか、大変興味深いのですが、新たな「註釈労働法」の本は出版されていないようです。

まとめ

以上、法の条文では週→日の順番なのに、実際の賃金計算では日→週の順番になるのはなぜかという話をしました。

日単位が特別法、週単位が一般法であるという解釈だから・・・・なんですが、現在では1項と2項とは併合罪の関係にあるという解釈もあり、この辺どう解釈したらよいかは私には分からないという結論でした。なんとももやもやした結論で申し訳ないです^^;

普通に、小さい単位→大きい単位の順と考えればよいのかなと、個人的には考えています。

では、なぜ法の条文を日→週の順にしなかったのでしょうか。別に、日→週の順番でもよかったのではないかと思うのですが。

この点については、別の日にあらためて記事にします(→記事にしました)。

以上、何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。