週建ての労働時間制が基本のはずなのに、週単位での割増チェックがもれやすいのはなぜか

以前、労働基準法32条はなぜ週が先、日が後かという記事を書いたときに、”日建て”の労働時間規制の考え方から、”週建て”の労働時間規制の考え方に発想の転換があったという安西先生の本を引用しました。

ところが、実際の賃金計算の現場では、日単位の割増チェックに漏れはなくても、週単位での割増チェックには漏れが多いです。1日8時間は知っていても、週40時間は知らない方が多いのです。これは、なぜなんでしょう?

36協定の矛盾

最初に結論を書いておきますと、現在の36協定届が1日単位、月単位、年単位の規制となっているからです。


36協定届の一部


これのせいで、週単位でのチェックが非常におろそかになっているナーと感じています。

1か月に1度の計算、一度に済ませたいニーズ

長時間労働の規制と賃金の時間外割増の計算とは、本来別物なんですが、忙しい会社の担当者さん(特に、社長や社長の家族がやっている零細企業)においては、一度に全部済ませてしまいたいという切実なニーズがあります。

その結果、賃金計算と36協定の上限の計算を一気に済ませてしまうので、週単位での集計が漏れやすくなっています。

また、賃金計算は基本的に1月に1回しかやりません。そのことも影響していると思われます(1週間1回ずつ集計し、計4回分溜まったところで月に1回の総まとめ的な計算をする企業さんは見たことがありません。現在の36協定の上限超えチェックをするためには、週単位のチェックは必要なんですが・・・)。

給与計算ツールも発達しているのですけどね、従業員が5人もいない零細企業では、そういうツールにお金を使うのはもったいないと考える企業さんは多いです。

36協定にも週単位を記載する欄が昔はあった

ところが、36協定にも週単位での上限を記載する欄が昔はありました。



旧36協定の一定期間の欄


図の「延長することができる時間」の「1日」の欄は今も残っていますが、「(1日を超える一定の期間起算日)」の欄が今は「1箇月」に変わっています(さらに、法定労働時間を超える時間と所定労働時間を超える時間と区別して書くように、現在は変わっています)。

この一定期間には、かつて次のような上限の告示がありました。



東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」平成2年(1990年)9月10日発行428頁


労使協定で一定期間を1週間とした場合、36協定届の所定の欄には1週間の起算日をかっこ書きで記載し、上限を15時間などと書いていたのです。

ところが実際にはここは1か月を書く企業さんが多かったです。実務でも、私はここに1か月と書く企業さんのお仕事しか経験がありません。

このように、1週間を記載することは想定されていましたが、実際に書いた企業は少なかったと思います。

これはなぜかというと、もう推測するしかないのですが、やはり給料締日の関係だと思います。

どの企業でも1か月に1回給与を支払うことが多いでしょうから、長時間労働の管理も1か月に1回、同じタイミングでやりたいというニーズが高いと思います。

そのせいでしょうか、現在の36協定届では1か月と区切られてしまいました。

何が困るか

36協定届の一定期間の欄が廃止され、1か月と区切られてしまったことで何が困るかというと、法定闘争の場に持ち込まれたときです。

36協定届で1か月の上限を例えば30時間としていた場合、法32条違反(週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならない)の犯罪を証明するためには、その1か月の起算日はどこで、どこまでの時間外労働が月30時間の枠内に収まって、どこからの時間外労働が1週40時間超え、ないし、1日8時間超えとなるかを特定しないといけなくなります。

このことは既に裁判で問題となっていて、


根本的な問題は、いわゆる36協定が労働基準法32条1項の週単位の時間外労働及び同条2項の日単位の時間外労働の免責規定として扱われるという解釈が実務上定着しているにもかかわらず、労働基準法が、月単位の時間外労働協定を許容する一方で、それが免責規定として週単位ないし日単位の時間外労働にどのように影響するかについての手当てを欠いている点にある。立法的な解決が望まれるところである。

大阪高裁H19年9月12日判決平成19年(う)171号


とありますように、36協定と労働基準法の週建て規制との関係があいまいになっている点が指摘されています。

まとめ

以上、週建ての労働時間制が基本のはずなのに、週単位での割増チェックがもれやすいのはなぜか、36協定届との関係から紹介しました。

この辺のチェックが不安でしたら、専門家である社会保険労務士にご相談ください。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。