総枠の時間外となるのはどこか【1か月単位の変形労働時間制】
次の図は、厚生労働省が公開している1か月単位の変形労働時間制のパンフレットの一部です。
この図の⑤に注目してください。この⑤が、この事例における1か月の総枠の時間外労働です。
次の図は東京労働局が公開している1か月単位の変形労働時間制のパンフレットの一部です。
この図の⑧が、この事例における1か月の総枠の時間外労働です。
違いが分かりますでしょうか?
厚生労働省の事例では、一番最後の日に総枠の時間外労働時間が特定されています。
一方、東京労働局の事例では、一番最後に時間外労働をした日の時間外労働時間の一部に総枠の時間外労働時間が特定されています。
なぜこんな違いがでるのでしょう?
厚生労働省の事例
厚生労働省の事例は実労働時間基準にもとづくものです(実労働時間基準と所定労働時間基準の話は以前別の記事で紹介しました)。
実際に働いた時間を重視します。この事例で言えば、総枠時間を使い切るのが、最終日の31日に、7.1時間労働した後だったので、最後の0.9時間分が時間外労働扱いとなります。
しかし、本来31日はもともとは所定労働時間が8時間と想定されていた日であり、実際その日に働いたのも8時間であり、適法とされた8時間を適法に8時間働いたはずなのに、このうち7.1時間は適法で、0.9時間は違法となるのはおかしいと考えることもできます。これは、安西先生の考え方です。
「当初適法であった所定労働時間が他の日の所定時間外労働のあった結果違法となるということは、変形労働時間制も法定労働時間であることからあり得」ないとの批判もある(安西・改正実務139以下)。
東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」151頁(本来原本に当たるべきですが、安西先生の「改正労働時間法の法律実務」原本を入手できていないため、引用していたこちらを引用しました)
そこで出てくるのが所定労働時間基準の考え方です。
東京労働局の事例
東京労働局の事例は、所定労働時間基準にもとづくものです。
所定労働時間基準では所定労働時間を重視しますので、最終日である30日の所定労働時間である9時間のどこも時間外労働とはなりません。
その代わり、所定労働時間を超えて労働した日が問題となります。
この事例では24日の⑦と⑧が問題となります。
もっともこの24日が問題となるのは、24日当日ではなく、30日までの時間的経過を経た後の話です。
30日までの所定労働時間をしっかり働ききらない限りは、この24日がどうなるのかは分からないのです。
そういう意味ではこの東京労働局の事例は、東京大学労働法研究会の考え方にのっとっていると言えます(所定労働時間基準を基本にしつつ、補足的に実労働時間基準を用いる考え方)。
まとめ
以上、厚生労働省の事例と東京労働局の事例から、変形期間の総枠の時間がどこになるかの考え方を二つ紹介しました。
実務でどちらをとるのが良いかというと、どちらでもかまいません。なお、給与計算ツールをお使いの場合はそのツールのルールに従ってください。
何かのお役に立てば幸いです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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