照合省略と17条付記
私のブログの閲覧ランキングにこういう記事「照合省略(17条の付記)にかかる労働局からの通知が来ました。」がありまして、今さらながら、てきと~~な記事だったのにランキング上位に来てしまい、困ったな申し訳ないなと反省しているので、少しちゃんと調べたことを書いておこうと思います。
この記事を書いたとき、早くお客さんの手続代行したいなーという気持ちしかなかったので、照合省略と17条付記を同じものとして書いていましたが、別物です。間違えてすみません。
17条付記
17条付記というのは社労士法17条に定めのある、書類を省略できるやり方です。
社会保険労務士又は社会保険労務士法人は、申請書等(厚生労働省令で定めるものに限る。)を作成した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、当該申請書等の作成の基礎となつた事項を、書面に記載して当該書面を当該申請書等に添付し、又は当該申請書等に付記することができる。
社会保険労務士17条
書類を作成するにあたって、当然いろいろな根拠資料を確認しているはずでして、それを添付して提出するのがふつうですが、書類に審査しましたよということを記載しておけば、添付しなくてもよいという規定です。条文の中に「当該申請書等に添付し」とありますが、昭和56年改正法施行通達では、「書面添付の方式は当面の間これを用いないものとされ」たそうで(社会保険労務士法詳解H20年3月1日発行267頁)、実務においてはほとんど付記の方法によることが多いのではないかと思います。
記載することを「付記」と言っているので、17条の付記と呼んでいます。
社労士だと添付書類が少なくて済むので、顧客に売り込むときの一つのネタになります。
すべての書類についてできるものではなく、社労士法施行規則の第13条で、対象となる申請書が列挙されています。
法第十七条第一項及び第二項の厚生労働省令で定める申請書等は、次のとおりとする。
一 労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)第五十七条第一項第一号に係る報告書
二 雇用保険法施行規則(昭和五十年労働省令第三号)第六条第一項の雇用保険被保険者資格取得届、同令第七条第一項の雇用保険被保険者資格喪失届及び雇用保険被保険者離職証明書、同令第十三条第一項の雇用保険被保険者転勤届、同令第十四条の個人番号変更届、同令第十四条の二第一項の雇用保険被保険者休業開始時賃金証明書、同令第百一条の五第一項の雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書、同令第百四十一条の届書並びに同令第百四十二条の届書
三 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第四条の二第一項の保険関係の成立の届出及び同条第二項の変更の届出
四 健康保険法施行規則(大正十五年内務省令第三十六号)第二十五条第一項の届書
五 厚生年金保険法施行規則(昭和二十九年厚生省令第三十七号)第十八条の厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届
社会保険労務士施行規則13条1項(ハイライトは筆者)
これだと分かりづらいと思うので、次に一般的な名称での書類名を列挙しておきます。
号数 | 届書 |
1 | 適用事業報告 |
2 | 雇用保険被保険者資格取得届、雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険被保険者転勤届、個人番号変更届、雇用保険被保険者休業開始時賃金証明書、雇用保険被保険者60歳到達時等賃金証明書、雇用保険適用事業所設置届、雇用保険適用事業所廃止届、雇用保険事業主事業所各種変更届 |
3 | 労働保険保険関係成立届、労働保険名称、所在地等変更届 |
4 | 健康保険被保険者報酬月額算定基礎届 |
5 | 厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届 |
上表を見てのとおり、4の健保と5の厚年は年次の算定基礎届だけなので、一番効果が大きいのは2の雇用保険でしょうね。1の労働基準法の適用事業報告は、実は私は提出した経験がないです。一応事務所をかまえるにあたって、手続代行メニューに載せましたが、依頼があるかどうか・・・・。
3の労働保険の労働関係成立届については、17条の付記をしても、添付書類のうち登記簿謄本(記載事項全部証明)を省略して提出したことは、私はないです。お客さんから提出してもらった登記簿謄本をそのまま添付して提出しています。これは、登記簿謄本を持っていても持て余すこと、お役所に提出してしまえばお役所の管理になるので安心なこと(他力本願ともいう・・・)、最初なので会社名に間違いがないかお役所にもしっかりとチェックしてもらいたいことという理由からです。なお、労働者名簿や雇用条件通知書は省略することが多かったです。他の社労士さんはどうしているのかなあ?
17条付記は昭和57年から始まった制度でかなり古いのですが、認知度は低いですね・・・。社労士さんでも知らない方がたまにいて、驚きます。・・・などと言っている私も勤務社労士時代、17条付記を知らず、出先のハローワークで教えてもらって初めて知りました。
また、昭和57年ですから、まだ電子申請が始まる前です。基本的に紙ベースでの申請のときに使うものだと私は理解しています。
「社会保険労務士法詳解」(全国社会保険労務士連合会H20年3月1日発行)によれば、「付記の方法には別段の定めがない」そうですが、例として次のように書くことが示されています。
本報告書の記載事項については、法人登記簿謄本及び労働者名簿により点検確認した上作成したものである。○○県社会保険労務士会所属社会保険労務士X X X X
社会保険労務士法詳解 全国社会保険労務士連合会H20年3月1日発行267頁
↑この書き方をしたことは、私は一度もないです。噂では、17条付記のハンコを忘れてその場で書いた社労士さんがいたと聞いたことはあるのですが・・・。基本的には17条付記のハンコを押しています。
労働局の照合省略
労働局の照合省略というのは、あらかじめ労働局に申請をだしておき、認められれば、特定の書類を提出するときに添付書類のいくつかを省略できるというものです。社会保険労務士だけでなく、事業主、労働保険事務組合においても認められています。
以前は法の条文などに明確に定められたものではなかったのですが、平成31年から雇用保険業務取扱要領に定められました。社労士法の17条の付記と違い、こちらは行政通知レベルのしくみなんですね。
雇用保険業務取扱要領(長いので、照合省略について記載のあるところだけのPDFのリンク)
社労士の場合、申請先が労働局なので労働局の照合省略と言っていますが、事業主の場合はハロワなので雇用保険の照合省略と言うこともあります。どちらも同じことです。
社会保険労務士の場合、関与先企業が県をまたぐことがあります。かつては関与先企業が所属する都道府県の分だけ労働局に申出をする必要がありました(超めんどい)が、現在は管轄労働局に1回だけ出せばOKとなりました。
申出書の提出先は、事業主は管轄ハローワーク、社会保険労務士は管轄労働局です。労働保険事務組合も管轄労働局だと思うのですが、これは未確認です(手抜きですみません)。
照合省略は、電子申請でも使えます(添付書類を省略することができます)。
添付書類を省略できる手続は下記のとおりです。太字にしたのは17条付記と重複するものです。
- (1) 雇用保険被保険者資格喪失届
- (2) 雇用保険被保険者60歳到達時等賃金証明書
- (3) 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- (4) 雇用保険被保険者所定労働時間短縮開始時賃金証明書
- (5) 高年齢雇用継続基本給付金の支給申請
- (6) 高年齢再就職給付金の支給申請
- (7) 育児休業給付(出生時育児休業給付金及び育児休業給付金)の支給申請
- (8) 介護休業給付金の支給申請
「なお、(1)に添付される離職証明書については、⑦(離職理由欄)を除く離職証明書の⑧欄から⑫欄の各欄に係る確認資料を省略する。」ということですので、賃金台帳と出勤簿は省略できても、離職理由を確認する書類は省略できません。
申請の仕方は各都道府県の労働局のホームページを参照してください。群馬労働局の場合は大変分かりづらいので、電話して聞く方が早いと思います(事業主の方はハロワへ)。
東京労働局や愛知労働局の照合省略はとても分かりやすくまとめられているので、おすすめです。
注意点
17条付記にせよ、照合省略にせよ、当局が「ちょっと確認したいから、提出したときに省略した書類、やっぱり見せて」と言ったら、すぐ提出してください。
届出の際、書類を省略できるだけであり、書類自体が存在しなくてもよいというものではないのです。
もし提出できなかった場合は、事務処理に懈怠ありとして、せっかく認められていたものが取消されても文句は言えません。
離職票の⑦離職理由
照合省略では離職票の⑦離職理由欄の内容を証明する書類については省略できません。
ところが、社労士の17条付記では離職票も対象に入っていますので、17条付記があれば離職理由を確認できる書類を省略することができるようです(規定の上では)。
「できるようです」と自信のない書き方をしたのは、かつて、以前はそうだったからです。2018年に離職票をあるハロワ(群馬県下)に出した際、離職理由を確認できる書類を添付したことは一度もなかったです。
ただそれが、正式なやり方だったかというと・・・イマイチ自信はないです。
当時私は駆け出しの社労士で、時間に追われてちゃんと調べることを怠っていました。すみません。
今もそうとは限らないし、別のハロワだとダメと言われるかもしれませんので、届出の際は管轄ハロワによく確認してください。
繰り返しになりますが、省略できたとしても、その書類自体の存在がないことまで許されている訳ではありません。本来お役所がやるべき審査の一部を、社労士が肩代わりしているだけだと私は思っています。だから、社労士が離職理由を確認する行為自体を省略してしまってはダメです。何らかの形で確認して、その証拠を残しておくべきだと思います。
照合省略が認められていれば、17条の付記をしなくてもよいか
労働局に申出をして、照合省略が認められたのであれば、17条の付記をしなくてもよいように思います。ところが、慣例として、照合省略をしていても、17条の付記をすることが多いです。
この辺の取扱いは、社労士会ごとに違うのかもしれません。ちなみに、青森県会の会報を読むと、青森労働局からの「お願い」レベルで、照合省略していても17条の付記もするようにしているようです。
http://www.sr-aomori.info/kaihou/200610/200610.pdf
↑このPDFの3頁目に、青森労働局からのお願いが書いてあります。
私も、照合省略の申出をしつつ、17条の付記もする方法でしか紙ベースの申請はしたことがありません。このやり方が群馬県会の統一したやり方かどうかは知りません(先輩社労士さんのやっていた書類の控えを見てやりました)。
17条付記のハンコの規格
17条付記のハンコの規格は、東京社会保険労務士協同組合さんのHPが詳しいです。
https://www.src-tokyo.jp/pdf/koubai01_6.pdf
このハンコの規格の根拠はなんでしょうね?
多分、青森県会の会報97号に載っている、昭和57年10月25日の労懲発59号「社会保険労務士法第17条に基づく付記の方法について」だと思うのですが、未入手、未確認です。青森県会会報97号では途中まで載っていますが、その内容は、東京社会保険労務士協同組合さんのPDFに載っている内容とほぼ同じです。
20230425追記
このハンコの規格について、補足の記事を書きました。https://kn-sharoushi.com/20230426about_17hanko/
メリット印と17条付記印のちがい
メリット印というのは、雇用保険被保険者資格取得届などの書類にあらかじめ設けられている、社会保険労務士記載欄に押印するハンコのことです。
開業社会保険労務士なら提出代行印か事務代理印のいずれかを、勤務社労士なら事務担当印を押します。これとは別に17条付記のハンコも押して、めでたく書類が省略できます。この提出代行印等の規格を定めた通達は比較的すんなり見つけることができました。「社会保険労務士法施行規則第十六条にいう記名押印等の取扱いについて」(昭和54年2月9日庁保発第3号)です。でも、17条の付記のハンコの規格を定めた通達は見つけることができていません。知っている方がいましたら教えてください(切実)。
なんでメリット印というのかとか、いつからメリット印と言い出したかなどは私は知りません。年配の社労士さんに会ったら今度確認してみます。
提出代行と事務代理の違いについては、別の機会に記事にします(20221106追記。記事にしました)。これもまた、長い歴史のある話なんですが、知名度は低いです。
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