労働基準法は故意犯だけを処罰
荒木先生の「労働法」を読んでいたら、労働基準法は故意犯だけを処罰し、過失犯は処罰しないことについての説明がありました。自分のメモ用に、記事にします。
荒木先生「労働法」第4版
引用します。
なお、刑法総則の規程により特別の規程がない限り故意犯のみが処罰されるところ(刑8条、38条1項)、労基法には121条の両罰規定を除き、過失犯の処罰規定はないので、故意犯のみが処罰対象となる。したがって、犯罪の成立には構成要件該当性の認識・認容が必要である。
荒木尚志「労働法」第4版71~72頁
根拠
荒木先生の本にあった刑法の条文を引用します。
(他の法令の罪に対する適用)
第八条この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。
刑法8条
(故意)
第三十八条罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
刑法38条
解説(というよりは自分の理解)
労働基準法は刑法の特別法です。
処罰は刑法に定めがあることが原則ですが、別の法律の定めによって処罰することもあると定めたのが刑法8条です。
過失は処罰しないことを定めたのが刑法38条で、これによると他の法令に特別の規程があれば過失であっても処罰できることが分かります。
しかし、労働基準法には過失を処罰する規定はありません。
したがって、労働基準法は故意犯だけを処罰することになります。
感想
社労士として各企業の労務管理をいくつか見てきて、現実問題故意犯なんているのか?という違和感を感じています。
企業では労働法に対する無知から、つまり過失から、結果的に労働者に長時間労働を発生させているのが大勢を占めているのでは?と思います。
例えば、パワハラですら、やっている人は無自覚なことが多いです。
自分のやっていることがパワハラだと自覚していたら、そもそもパワハラなんてしません。
ましてや長時間労働なんて、最初から意図してやろうとしている経営者はゼロでは?
それなのに故意犯でなければ処罰できないなら、犯罪の成立を立証するのは相当大変なことなんではないかと思いました。
実際、労基法32条1項と2項とは併合罪の関係と判じた最高裁第三法定平成22年12月20日の事件では、1審からずっと検察は、犯罪の成立を立証するために苦心していました。
会社に許可なく居残りして残業していた場合の黙示の指示なんてものも認められていますが、これも故意というよりは、限りなく過失に近いものだと思うのです。
この故意犯であるかどうかを争点にした裁判例はあるのでしょうか?
少し調べてみます。
追記
ところで、荒木先生の労働法の第5版がついに12月に発売ですね!楽しみです^^(↓リンクは国会図書館のページです)
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