年次有給休暇はいつの分から消費するのか
年休を買い上げできるのかという話を書いたので、ついでに年休をいつの分から消費できるのかという話も書いておこうと思います。
年休の時効は2年
年次有給休暇は付与されてから2年で時効となります(労働基準法115条)。1年で最大20日付与、うち5日は消化する(労働基準法39条7項)ので、長年勤務している従業員の年休は、あるとき瞬間最大風速的に35日存在することになります。
さてこの35日ある年休を1日だけ使ったとしましょう。昨年付与された分の余りの15日と、今年付与された分の20日と、どちらから先に消費していくことになるのでしょう?
年休の消費ルールは労使で決める
実は、年休の消費ルールは労働基準法では特に定めていません。
どの分から消費するかは、労使で決めてよいのです。実際には、まず会社(債務者)が定め、会社が定めない場合は、労働者(債権者)が使用するときに指定(意思表示)します。実際問題、労働者が意思表示することは少ないでしょうから、労働者が有利になるように繰越分から使ったのだというふうに解釈されています(民法488条、菅野和夫「労働法第12版」575頁)。
では、会社がルールを次のように定めてあったらどうでしょうか。
会社有利の就業規則
私が以前拝見した就業規則では、次のようなルールが書いてありました。
一計算期間に残された年次有給休暇は、翌計算期間に繰り越されることとし、請求した年次有給休暇は当年発生分から行使するものとする。
(太字部分筆者)
これは、会社にとって有利な内容となっています。
先の例ですと、35日の年休を持っている労働者が年次有給休暇を請求した場合、
- 繰越分15日
- 今年新たに付与された20日分 ← こちらから消費
ということになります。
1年の間に20日全部を使い切るまでは、先に時効が来てしまう繰越分の15日の年休を消費できないのです。
結果、その年が終わってみると、この労働者の方は結局新たに付与された年休を5日しか消費できませんでした。そうすると、繰越分の15日については手つかずのまま時効を迎えてしまう(消滅してしまう)ということになります。
このルールは別に違法ではありません。民法488条4項2号の弁済の充当のルールを適用したものでして、債務者(会社)に有利なようにしただけです。しかし、果たしてこれでよいのでしょうか??
疑問に思った私は、この就業規則の会社の社長に、「これだと働く人たちが”社長はそんなに俺たちをこき使いたいんだな。嫌な社長だな!”と思ってしまいますよ?いいんですか?」とお話ししました。
そうしたところ、「え!そうなの!?いやそもそもそう言うルールになってるって知らんかった!!」と言われました^^;
社長の知らないうちに就業規則に定めてあるって・・・orzどういうことなのよ・・・・。結局そのルールはその後の改定で変更になりました(労働者有利に変更)。
労働者が気持ちよく働ける就業規則
私だったら、先の就業規則は次のように書きます。
一計算期間に残された年次有給休暇は、翌計算期間に繰り越されることとし、請求した年次有給休暇はこの繰越し分から行使するものとする。
(太字部分筆者)
普通に古い方から使っていくという形にするのが、一番労使双方が納得できると思うのです。
就業規則というのは、会社のルールを単に定めたものではなく、労使双方が納得して、労働者が気持ちよく働けるようにするものだと私は考えています。
労働者の無知につけ込んで、社長のウケを狙って会社有利にばかり就業規則を定めるなんてことは私はしません。結局そういう就業規則は、働く人のやる気を削ぎ、離職者を増やし、人材が定着せず、まわり回ってその会社のためにならないと信じるからです。
念のために書いておきますが、すでにある就業規則を変えて、例えばこれまで年休をどの分から使うか明記していなかったので当年分から年休を使うように書き換えようとするのなら、不利益変更となりますのでできません。もし物理的に書き換えることができたとしても、そして労基署に変更後の就業規則を届け出て受理されたとしても、労基署は形式的に受理するだけですから必ずしもお墨付きを与えていることにはなりませんので、ご注意ください。
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