「わたしだけいつも残業が少ない」という相談
- [記事公開]2022.07.13[最終更新]2022.07.14
- 労務相談
労働者から、「わたしだけいつも残業が少ない!あの人はいつも残業いっぱいさせてもらえているのに!不公平だ」という苦情があったとき、どう対応しますか。
残業命令は会社の義務ではない
まず、残業命令は会社の義務ではなく権利です。
誰に残業命令を出すかは、会社の裁量で決めてよいのです。
会社は限られた人件費で最大の効率を出すために、より優秀で手際のよい人を選んで残業命令を出すかもしれません。あるいは、担当が決まっているのであれば、その仕事の担当者に残業命令を出すかもしれません。
この辺の采配は、労働者側から提案することはあっても、決定権は会社にあります。
したがって、仕事ができず、協調性がないような人には、あまり残業命令を出すことはありません。効率が悪くなるし、残業時間に職場の雰囲気が悪くなるからです。
不当な目的があればハラスメント
しかし、たとえば「人間関係の切り離し」など、不当な目的をもって特定の人物にだけ残業命令を出さないということがあれば、パワーハラスメントの可能性があります。
「人間関係の切り離し」というのはどういうことかというと、要するに「ハブにする」「のけものにする」というイジメのことです。
あの人は気に入らないからあまり残業をさせないでおこう・・・というような、意地悪な意図があるとしたら、ハラスメントとなります。会社としてパワハラを予防するのは義務であり、万が一パワハラが発生したら、きちんと対応しなければなりません。間違っても放置してはいけません。使用者責任を問われることになります。
両者からヒアリング
そこで、関係者からヒアリングを行います。この際、気を付けることは、できる限り人の耳目がないところで聞くことです。一対一でヒアリングできる環境があればベストです。
特に、苦情を申し立てている労働者からのヒアリングには注意を要します。できる限り聞き役に徹し、相手が言いたいことを全部言えるような雰囲気にもっていきます。
苦情は、実はその苦情だけではないことが大半です。問題の根源は、もっと別のところにあることが多いです。
実際にあった例
私が過去に経験した例では、まず残業命令を出す立場の人からヒアリングしました。その結果分かったことは、
- Aさんは仕事が遅い
- Aさんに注意しても聞いてくれない
- Aさんは上達が遅い
- Aさんは遅刻が多い
- Aさんは不平や不満が多い
というようなことでした(Aさんというのが苦情を申し立てた人)。
一方、問題の「残業させてくれない!不公平!」と言っているAさんからもヒアリングしました。
- Bさんばかりちやほやされる
- Bさんは好かれているけど、私は嫌われている
- Bさんばかり残業してお金がいっぱいもらえてくやしい
- 私は一生懸命やっている
- Bさんばかり残業させてもらっているから上達も早い
- 私は残業させてもらえないから上達が遅い
というようなことでした。
話を聞いていて、すぐに気が付いたのが、問題のAさんはBさんという同僚と仲が良くないということでした。とにかくBさんの悪口ばかりでしたから。
残業がしたいというのは本音でしょうが、本当の苦情は、Bさんとの仲がうまくいっていないことだと私は思いました。
パワーハラスメントはないという印象でした。
そこで、会社にはAさんの残業を少しでも増やせないかということとあわせて、AさんとBさんとがあまり同じ作業空間にならないように業務を割り振ることができないか提案しました。
後日談
Bさんが2回残業するのに対し、1回はAさんも残業させるように会社は配慮したようです。
その後ひとまずAさんからの苦情はなくなりましたが、その後1年も経たずにAさんは仕事をおやめになりました。orz
妊娠したので出産育児に専念したいからという理由でしたが、本当のところは不明です。
働き方改革の真っ最中、残業時間はなるべく少ない方がよいという社会の風潮がありますが、一方で時給制で最低賃金スレスレで働く人にとっては、今も残業代が貴重な生活費となっています。だから、残業をさせてもらえないというのは、切実な問題になりえます。
といっても、今回の真の原因は、職場の人間関係だったようです。
Aさんに、「残業は会社の采配で決めることだから」とつっぱねることもできましたが、会社はそうしませんでした。Aさんにも残業をさせることで、真の不満(Bさんとの仲の悪さ)を中和する作戦をとりました。結局、Aさんはおやめになってしまいましたが、それでも円満退職となったようですので、会社のとった作戦はよかったのかなと思います。
※本記事は企業、個人が特定できないよう、趣旨が変わらない程度に一部事実を脚色してあります。
社労士を使うメリット
この相談は外部の窓口として私が対応したものでした。
会社側担当者の話はものの5分で終わりましたが、Aさんのお話は1時間半くらいかかりました。
まずは相手に話したいだけ話してもらおうと思っていたし、普段のお仕事がどんななのかとても興味があったので、話を聞くこと自体はおもしろかったのですが、まさかこれほど長く拘束されるとは思いませんでした。
逆に考えると、これだけ話したいことを持っている社員さんの話を、会社側の誰かがじっくり聞くのは、難しいのかもしれないなと思いました。
多忙な上司、多忙な総務課や人事課の方では、話を聞くだけの精神的な余裕、時間的な余裕はないと思うのです。
有期雇用契約者やパートタイマーの相談窓口や、長時間労働対策で心とからだの健康問題についての相談窓口を設置する場合の相談窓口などは、会社内部でなく外部でもOKです。
会社内部に設けるキャパシティがないのなら、社労士や外部組織を利用してみてはいかがでしょうか。
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