15分単位の労務管理が今も残り続ける訳
以前、「15分単位の労務管理の根拠となる通達がかつて存在してた話」という記事の中で、「この通達はすでに廃止されています。」と私は書きました。
なぜなら、東京大学労働法研究会の本にそう書いてあったからです。
廃止の根拠
周知のように、行政解釈は旧来より、時間計算の都合上「例えば15分の遅刻に対し30分迄を切捨て、又15分の残業を30分の残業とする」ことも問題ない….(中略)…としていた(中略)。しかし、今回の法改正(筆者注:昭和63年法改正)にともない、遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理については、「労働の提供のなかった限度を超えるカット・・・・・・について、賃金の全額払の原則に反し、違反である」と変更し、割増賃金における端数処理については、従来の行政解釈を踏襲している(昭63・3・14基発150。後略)
東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」252頁(太字とハイライトは筆者)
「変更し」とありますので、前の通達(昭和23年2月20日基発297号)は廃止となり、新たに昭和63年3月14日基発150号が出たということだと思いました。
しかし、安西先生の本には今も普通にこの通達が載っていました。
安西先生の本
表内の通達の欄に、「昭23.2.20基発297号」とあります。
安西先生の本では処理を「常に切り上げ」としており、切り捨てることを促してはいません。
しかし、これを見て「もしかして昭和23年2月20日基発297号はまだ有効なのかな?」と思いました。
現実に残る15分単位の労務管理
実際、今も15分単位の労務管理はあちこちの会社に残っていて、あろうことか労務管理ソフト自体にそういう機能があるようです。
どうしてこんなことが行われているのだろう・・・?と考えたところ、社会の中では昭和23年2月20日基発297号の通達がいまだに有効だと勘違いされているのではないかと思いました。
明示的には廃止されなかった通達
昭和23年2月20日基発297号で15分単位を認めていたのですが、これは昭和63年3月14日基発150号の通知で廃止になりました。
ところが、このときの廃止の仕方が明示的ではありませんでした。
昭和63年の通知全文は情報公開請求によって全文が公開されています。
以下のサイトで確認することができます。
念のため、PDFのリンクも貼っておきます。
https://jaidunion.com/wp-content/uploads/2016/10/19880314-001.pdf
この表紙を見ると、今後「解釈についてはこれによることとされたい。」とあるのみです。
普通、新たな解釈が出たときには、「○年○月○日基発○号については廃し、以降この解釈によることとされたい」などと書いてあるのですが、このときの通知は全部で500ページ以上となりましたので、細かく廃止になる通達はこれとこれというような明示は、されなかったようです。
その結果、どうなったかというと、今も15分単位の労務管理が残っている訳です。
もちろんこれは労基法違反となり得るのですが、いかんせん、かつて「お上」(おかみ)がOKと言っていたことでありますから、年配の経営者の中にはいまだに「15分未満は切り捨てていいって話だったはずだぞ?!」と思い込んでいる方もいます。
また、本来こういったことを取り締まるべき労基署でも、内部の非公開基準において15分程度の差なら誤差の範囲として指摘しない運用になっているという噂もあります(ただし、労基署が指摘しなくても、労働者に訴えられたら負けますので、念のため)。
まとめ
以上、今も15分単位の労務管理が残っている訳は、昭和63年当時明示的に廃止されなかったためではないかという私の憶測を紹介しました。
何かのお役に立てば幸いです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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