1年単位の変形労働時間制の週起算日による計算結果の違い

例によってこのブログは、他の人が書いていない、スキマ産業を埋めることを目的とした、「誰が読むんだこれ?」と思うようなネタをテーマにお届けします。

本日は、1年単位の変形労働時間制について、給与計算の段階で必要となる「週」の起算日を任意(就業規則等)で決めた場合と、開始日の曜日を起算日とする7日間とした場合(平成11年3月31日基発169号)とで、実際の計算に違いが出るかという問題です。

法律の定めや行政解釈については以前記事にしました。

今回は、じゃあ実際に計算してみて、賃金に差は出るのか?という問題です。

忙しい人用に先に結論を書いておきますと、毎月の賃金額には差は出ましたが、1年間を通してみた場合には差は出ませんでした。

モデルケース

いつもおもしろいネタを吐き出してくれるさとしさん(@srsatoshi0852)が、1年単位の変形労働時間制の給与計算方法について問題を出していました。ときどき鍵アカになるアカウントですし、ご本人さまにも了承を得ていないので、著作権の問題がありますから引用はしませんが、次のようなカレンダーで毎日1時間残業したらどういう賃金となるか?という問題です。

1年単位の変形労働時間制のカレンダーの例

条件

法定休日出勤、所定休日出勤はなしです。

時給は、1,000円です。

所定労働日278日すべてにおいて1時間の残業をしたという想定です。

欠勤も遅刻も早退もなしです。

有給休暇消化ゼロです。

日曜日を起算日とした場合

就業規則や労使協定において、「週の起算日を日曜日とする」と定めておいた企業さんの場合、週の法定労働時間超を判定するにあたって、週の起算日は日曜日となります。

その前提で計算すると、次のような計算結果となりました。

日曜日を起算日として計算した場合

AとBとCとに重複する時間はありません。

3月のところだけ総枠計算があるので2行にわたって計算しています。

最終的な3月の賃金は231,450円です。

補足があります。

半端な週の計算方法です。

日曜日起算とした場合、4月第1週目と、3月第6週目とが半端な日数の週となります。

この半端な週は、法定労働時間を40時間として計算しました。

これは、さとしさんが確認した労基署の方の見解を採用しています。

以上、補足を終わります。

変形期間開始日の曜日を起算日とした場合

平成11年3月31日基発169号を引用します。

問 対象期間が三か月を超える場合には、その労働時間が四十八時間を超える週が連続する場合の週数が三以下であること等の要件を満たさなければならないが、ここでいう「週」については暦週と解してよいか。

答 則第十二条の四第四項における「週」については、対象期間の初日の曜日を起算日とする七日間である。

平成11年3月31日基発169号

これにのっとって、変形期間開始日の曜日を起算日として計算しようと思います。

2021年4月1日が木曜日ですので、木曜日起算で週の法定労働時間超を判定して計算した場合の計算結果は、次のようになりました。

木曜日を起算日として計算した場合

これもAとBとCとに重複する時間はありません。

これも3月だけ2行にわたって計算しています。

3月の最終的な賃金は229,950円となりました。

補足があります。

変形期間開始日の曜日を起算日としていますので、半端な週は最終週だけに発生します。

今回の事例ですと、3月第6週目です。

これは、平成9年版労働法コンメンタール1か月変形における半端な週の考え方を採用しました。

平成9年版労働法コンメンタールから、半端な週(図では最終週が3日間だけ)の解説部分に注目。端日数について17.1(40時間×3/7週)と計算しています。

暦日÷7日×40日で出てきた時間と、所定労働時間の合計とを比べて多い方をその週の法定労働時間とする計算方法です。

具体的に言うと、3月31日の存在する週は、3月31日の1日しか存在しませんので、

1日÷7日×40時間=5.71時間

これと、所定労働時間の合計時間である7.5時間とを比べ、7.5時間の方が多いので、3月31日の週の法定労働時間は7.5時間としました。

以上、補足を終わります。

考察

ものの見事に毎月の給与額に差がでました。

考えてみれば当たり前の話です。1週間の定義が異なりますから。

しかし、年間合計賃金は同一となりました(日曜日起算の場合も、木曜日起算の場合も2,432,325円となりました)。

私は以前、↓こちらの記事でこう書きました。

今現在の私の考えとしては、1年変形であっても1週間の起算日は任意に定めることができるという解釈に傾いています。といっても、あくまでこれは私個人の考えであって、法廷闘争の場に持ち込まれたときに、この考えが通用するかというと別問題ですので悪しからず。

↑これを書いた後、判例を探して、裁判所はどのように計算しているか実例を見てみました。

そうしたところ、そもそも1年単位の変形労働時間制そのものを否定されるケースが多く、肯定されるケースはわずか2件しか見つけることができませんでした(そのことは↓の記事に書きました)。

ましてや、週の起算日をどっちにするのが正しいのかなんて、争点になっていないので読み取れませんでした。

そこで、思い出したのが、社会保険料の当月徴収問題です。

社会保険料(健康保険法による健康保険料と、厚生年金保険法による厚生年金保険料)とは、翌月の給与支給日において前月分の保険料を天引きすることができると法に定められています。

しかし、実際には当月分の給与から当月分の保険料を天引きする企業があります。

これは賃金控除の協定書を労使でかわすことで可能となるものです。

変形労働時間制における週の起算日も、この社会保険料の当月徴収のように、労使協定(ないし就業規則)に定めがある場合に有効となるものだと私は今は考えています。

行政通知(平成11年3月31日基発169号)では確かに変形期間開始日の曜日を起算日とすると言っていますが、行政の通知には法的拘束力はありませんし、労使で話し合ってよりよい方向にしていくのがそもそも労働基準法の基本方針ですから、週の起算日も労使協定等で決めればよいと思います。実際問題、今回の事例では年間合計賃金ベースで比較した場合に差異はなかった訳ですし。

以上、週起算日によって1年単位の変形労働時間制の給与計算の違いを考察しました。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。