【労働基準法】32条1項違反と2項違反は併合罪の関係

現在の法定労働時間は、週40時間、1日8時間です。

週40時間というのは労働基準法32条1項で規定されています。

1日8時間というのは、同法同条2項で規定されています。

さて、労働基準法では、週40時間を超えて労働させることも、1日に8時間を超えて労働させることも、犯罪です(労働基準法119条)。

もしどうしても必要があってこれらを超えて労働者に労働させたいなら、36協定なるものを労使で協定し、36協定届を役所に届け出ないといけません(労働基準法36条)。

しかし、この36協定届もちゃんと守らないと、結局犯罪が成立してしまいます。

ところでこの労基法違反ですが、犯罪の罪数としては、1項違反と2項違反は併合罪の関係にあるんだそうです。

1項違反と2項違反とは併合罪


労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと,同条1項違反の罪が成立する場合においても,その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し,それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。

最高裁判所第三小法廷 平成22年12月20日 平成22(あ)148 道路交通法違反、労働基準法違反被告事件


併合罪ということは、1項違反が成立する場合に、同時に2項違反が成立することもあるということです。これは大変なことです。なぜなら、1項違反(週40時間超え)が成立する場合と、2項違反(1日8時間超え)が成立する場合とは、結構な頻度で重なることがあるからです。

例えば、次の事例の①部分では1項違反と2項違反が同時に成立するのですが、

32条1項違反と2項違反が同時に成立しうる例

たった1回の時間外労働命令において、1項違反の犯罪成立、2項違反の犯罪成立となるということです。

2項は1項の特別法

ところが、この32条の1項と2項の関係は、かつて学説では2項は1項の特別法という考え方に従い、


1日単位での違法が成立する場合、当該労働が同時に週単位の規制の違反と見うる場合であっても法条競合であり、1日の法定労働時間の違反のみが成立することとなる。

東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」164頁


という風に、法条競合だと解釈していました。

「・・・していました」などと勝手に過去形にしてしまいましたが、実務においては今も法条競合だという解釈でやっているんではないかと思います。

でないと、割増率を重ねて払わないといけないことになってしまいますよね?

先の図の事例の①について、1.25以上で払えばよく、1.50以上としている会社は普通はないのです。労基署に確認しても、1.25以上でよいと言われます。

割増賃金の計算では法条競合と取り扱ってもよく、犯罪の罪数を数えるときは併合罪と取り扱うのは、なんとも変な気がするのですが、この辺の整理はどうつけたらよいのでしょう?


一つの行為で二重に処罰はできない

この点、安西先生は次のように言っています。


なお、同図表の一日単位のオーバータイム分であるA、Cの部分を、一週間単位の変形制の労働時間計算に算入しないのは、一度一日単位のオーバータイム分として時間外労働時間として算定された以上は、これを一週間単位の計算の中に再度含むのは二重の評価になるからであり、これは労基法が刑罰法規であることから一つの行為(時間外労働命令)について二重に処罰することが禁止されていることに由来する。

安西愈「新しい労使関係のための労働時間・休日・休暇の法律実務」全訂七版218p(文面にある図表は省略)


これもまた、最高裁の判決とは真っ向から反対の意見となるような気がします。労基法は刑罰法規であるから二重に処罰することが禁止されているのだそうです。それゆえ、一日単位で時間外労働とされた時間をさらに一週間単位の計算の中に含むのは二重の評価になるから禁止だそうです。

まとめ

以上、32条の1項違反と2項違反に関わる考え方を三つ紹介しました。結局どう評価したらよいのか、私は今のところ答えを持ちません。

最高裁の考え方は、判決文を読んでる限りでは違和感を持ちませんでした。1週間単位の規制と1日単位の規制とでは、目的趣旨が異なるというのは納得できました。

しかし、実務でこの二つを併合罪扱いとするとなると、????となることが多いです。やはり安西先生の影響かもしれません(私は入口が安西先生の本でした)。

最高裁の判決が出てからまだ10年しかたっていない(労働法の世界では10年は短いのです・・・)ので、まだ学説や判例が貯まっていないのかもしれません。もう少し調べてみようと思います。