併合罪の論文

労働基準法32条の2項と1項とは併合罪の関係についての論文を読みました。自分の頭の中を整理するために、内容を少し書き出しておきます。

“併合罪は「法理」か”

只木誠(島大法学第56巻第4号)2013

観念的競合罪とする見方もあることが言及されていました。

併合罪は「法理」ではないという結論でした。

“トラック運輸業における労働時間制と過労運転の実情と課題”

一実際の事案を踏まえつつ一滝原啓允(沖縄大学法経学部紀要17)2012

まず、法条競合、包括一罪、観念的競合(刑法54条1項前段)、併合罪(刑法45条)の4つのバリエーションがあると分析していました。

その上で、「労基法32条1項と同条2項の趣旨が同じものであるならば1罪の成立にとどまって、法条競合又は包括一罪となり、それぞれの趣旨が異なるものであると解するのであれば、2罪が成立することとなり、観念的競合又は併合罪となる」から、32条1項の趣旨と同条2項の趣旨が同じものなのか、異なるものなのかを検討することに。

検討するにあたって、労働基準法改正が議論された当時の議事録(第109回国会衆議院社会労働委員会における質疑)から考察していました。結局、2項における1日8時間の規制は、1日分の疲労からの回復と労働者の生活リズムを保全するための趣旨であるとしています。

一方、1項は1週分の疲労蓄積から労働者を解放する趣旨でありとし、この方も最高裁判決と同じく、1項と2項とは別趣旨であると考えています。

最高裁判決が併合罪としたのは妥当としつつ、観念的競合と解釈することもできたのに併合罪としたからには、ロジックが少し不十分だったとしていました。

観念的競合罪

二つの論文とも香城敏麿先生の論文に言及していました。二つが言及した論文は同じものではないのですが、「観念的競合罪」というのが共通のキーワードとして出てきました。

観念的競合罪というのは、1つの行動で2つの罪を犯すことです。

併合罪も観念的競合罪も罪の数は2つとなりますが、刑罰の量が変わってきます。ごく単純に言って、併合罪は足し算しますが、観念的競合罪の場合はより重い方の罰を受けることになります・・・と分かったようなことを書いていますが、私も今日初めて調べて知りました。

事例に即した判決

もう一つ、二つの論文に共通しているのは、最高裁の併合罪の判決が事例に即した判決であったということです。

今回の事例がこの時間外労働であったから併合罪としたが、また別の事例であったら分からないということです。

事例に即した判決であるならば、別の事例が出てきたらまた違う判決が出る可能性があります。

結局、賃金計算において、日→週の順番で計算することの根拠は、「2項が1項の特別法だから」でも「罪刑法定主義であり、同じ罪で2度罰することはないから」でもないのでしょうか。