最低賃金は業者間協定から始まった

「最低賃金法の詳解」(労働調査委員会出版局編改訂4版平成28年1月28日発行)を読みました。

「最低賃金法の詳解」(労働調査委員会出版局編改訂4版平成28年1月28日発行)

業者間協定

主に法施行と法改正の経緯の部分を読みました。

おもしろかったのは、日本の最低賃金制度は業者間協定から始まったということです。

今でこそ最低賃金と言えば地域別最低賃金が普通ですけど、当時は行政が押し付けるのではなく、労使が話し合って決めるのがよいという考え方が根底にあったのですね。

ところが、労使と言っても労働者側がそれほど成長していなかったからなのか、まずは民間において使用者側が業者同士で協定をかわして、それを黎明期の最低賃金制度の中に取り込む形にしたということが分かりました。

日本で最初の業者間協定は、静岡の製缶業者だそうです。

その後、業者間協定には労働者が参加しておらずILOの批准的に問題があるので廃止され、労使がイニシアチブをとる(という建前の)産業別最低賃金制度を設け、さらに昭和40年代になって行政が主導する審議会方式の地域別最低賃金制度が始まったようです。

特定最低賃金

産業別最低賃金は、比較的賃金水準の高い労働者の不当な切り下げによる競争の防止という機能があったそうですが実際には機能せず、地域別最低賃金とそれほど変わらない実態があったようです。

そこで平成19年の法改正の際、産業別最低賃金はやめ、かわりに特定最低賃金を設けました。これが現在の特定最低賃金です。といっても、それまでの産業別最低賃金を特定最低賃金とみなすことにしたので、今でも”特定(産業別)最低賃金“という言い方をしています。

正直、本を読んだだけでは産業別最低賃金と特定最低賃金の違いがよく分かりませんでした。罰則の有無くらいしか違いがないような気がします。

地域別の方が高いところも

群馬に住んでいると特定最低賃金は地域別より高いのが当たり前だったので気が付きませんでしたが、今回調べたら、特定の方が地域別より低いところもあるのですね。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-19.htm

図は令和3年のものなので古いのです。東京都の地域別最低賃金は現在1072円です。最低賃金法第16条には特定最賃は地域別を上回る金額とするという規定があるので、なぜ東京都では地域別より低いのだろうと疑問に思ったのですが、東京都の特定最低賃金については図にある日付に発効してから改正されていないようです。法16条は改正するときに上回ることが義務付けられています。東京都ではずっと改正されていないため、地域別よりも低い金額となっています。

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/news_topics/kyoku_oshirase/shingikai_gijiroku/_112528/20140310.html

上のリンクは、東京都の審議会議事録のうち、第375回東京地方最低賃金審議会議事録(平成26年3月10日開催)のものです。この議事録を読むと、特定最低賃金について労働者側は改正の申出をしているのに対して、使用者側が”改正は必要ない””特定最賃は廃止の方向で”と主張していることが分かります。

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/var/rev0/0137/4629/201451915226.pdf

一方で、労働者側は特定最低賃金の意義を訴えています。下記はある労働組合のホームページにあった2017年の記事です。

特定最低賃金の本来の役割を取り戻し労働市場に適正な賃金相場の形成を