固定残業代の何が問題だったのか

最近出た最高裁判決(令和5年3月10日)について、労働法専門の教授の解説を聞いてやっと理解したので、自分用に記録します。

国際自動車事件

国際自動車(タクシー会社)の場合は、まず総額(A)が決まっていました。

毎月まず時間外手当を計算します。これを、仮にX円とします。次に基本給(D)を決めます。基本給(D)の計算式は、

基本給(D) = 総額(A) - 時間外手当(X)

です。

総額は、基本給(D) + 時間外手当(X) ですから、常に一定となります。

時間外が多いときは基本給がゼロになる月もあるというこのKM方式は、最高裁で否定されました。理由は、時間外(X)の中に、通常の分と時間外の分とが判別できないからでした。

熊本総合運輸事件

今回の事件ではまず基本給(B)が固定賃金として決まっていました。これは最低賃金ギリギリのかなり低い金額だったようです。仮にこれを12万円とします。

次に、毎月最初に総額(A)を計算します。走行距離で計算していたようです。仮にこれを30万だったとします。

さらに、基本給(B)をもとに時間外手当(C)を計算します。仮にこれが8万円だったとします。

最後に、調整手当(D)を計算します。調整手当(D)の計算方法は、次のとおりです。

調整手当(D) = 総額(A) – 基本給(B) – 時間外(C)

この計算式に当てはめると、Dの値は10万円となります。

支給される総額(A)の値は次のとおりです。

総額(A) = 基本給(B) + 時間外(C) + 調整手当(D)

熊本地裁

この計算方法ですと、調整手当(D)が通常の賃金とみなすことができます(時間外手当(C)は基本給(B)をもとに37条の計算をしたものです。一方調整手当は37条の計算をしたものではないので、通常の賃金に相当するものとなります)ので、Dに対する労働基準法第37条に基づいて計算した割増賃金が支払われていないことになります。

そこで、調整手当(D)に対する割増賃金を支払うように熊本地裁は判決しました。会社側はこれを受けてその金額を支払いました(弁済すれば付加金を払わなくて済むから)。

福岡高裁

これに対して労働者側は控訴しました。

しかし、福岡高裁では会社が調整手当に対応する割増賃金を支払ったことから労働者の訴えを退けました。

最高裁

最高裁では、時間外手当が増えれば調整手当が減り、時間外手当が減れば調整手当が増えるというあやしい関係の「割増手当」に注目しました。割増手当は時間外手当と調整手当とに分けて考えるのではなく、一体として考えるものであり、一体として考えたときに通常の賃金と時間外労働に相当する賃金とが判別できるかというと、増えたり減ったりという関係では判別できないとしました。

感想

これで固定残業代の2つのやり方は最高裁に否定されてしまいました。トールエクスプレスジャパン方式については高裁で労働者側敗訴となりましたが、最高裁の判断はまだ出ていないので、今のところ有効とみてよいのかもしれません。しかし、訴訟リスクを考えると、ダラダラ残業対策として固定残業代を採用するのはどんな方式でもやめておいた方がよいと思いました。