年次有給休暇の意義

年次有給休暇の意義というと、リフレッシュとか体の休養とかの側面から語られることが多いと思いますが、今日は別の側面からの話を少ししてみます。

私は長時間労働をなんとかしたいとずっと思っていまして、その一環で年次有給休暇についても強く推しているところです。

ところが、いまだに年次有給休暇の意義を理解していない社長がいます。

「土日があるだろうに。なんでそれ以上休むんだ?」というお考えです。

遠い昔、1週48時間でしたからね。土曜日も休みになる前は、日曜日しか休みはありませんでした。その時代を知っている人には、週2日も休みになる今、さらに年次有給休暇までとって休む必要あるのかとお考えになるのも無理はないのかもしれません。

しかし、年次有給休暇に限らず、人はいつ病気になるか、けがをして休むか分かりません。あるいは家族の介護や病気などで仕事を休まざるを得ない場合があります。

そういう場合に、年次有給休暇取得率の低い会社では、長期休職者がでたとたん、得てして会社内で大きな問題化します。

なぜなら、その人が休むことを前提にしてこなかったから。

その人がいて当たり前の状態で仕事を回してきたから。

結果、どうしてもその人が休まなくてはいけなくて、仕事を休んだときに、大きな取引を逃すとか、大きな損失を抱える羽目になります。

そして、最悪なことに、休んだその人が悪いというような雰囲気になることも・・・。

しかし、社会保険労務士の私の目から見ると、社長の危機管理が悪かったとしか言えません。

年次有給休暇は、確かに休むためのものですが、それだけではないのです。

年次有給休暇をきちんと消化している会社というのは、それだけ仕事が誰でもできるようになっています。

誰がいつ休むか分からないから、日ごろからホウレンソウをしっかりとしています。仕事を属人化せず、マニュアルを作り、誰でもできるように教育してあります。

工程表を共有し、どのタイミングでどの作業まで進んでいれば工期に間に合うか、進捗管理がしっかりしています。おかげで、それを見ればこのタイミングなら休める、このタイミングで何人か休んでも工程管理に差しさわりがないということが組織の末端まで周知されています。

こうしたことは、会社の一組織だけでできるものではありません。

トップの意識が大切です。とりわけ、社長の意識が大切です。

昔かたぎの、古い考え方の社長さんですと、「1年366日働きます!」ということを自慢げに話されることがあります。それはそれでりっぱなことだとは思うのですが、それをそのまま労働者である社員さんに当てはめてはダメです。

労働者の中には、職人気質の方もいます。自分がいないとこの仕事は回らないんだということを自負している方たちです。

それはそれでりっぱなお考えではあるのですが、組織としてやっていくのであれば、社長としてはそういう社員を教育し、意識改革していかないといけません。

「あなたの腕が確かなのは知っている。でもそれだけで終わらせず、その技術をぜひほかの人にも教えてほしい」と言うべきです。

ところが、社長自身が職人気質の方ですと、そういった社員の考え方を特に不都合にも感じず、放置してしまうことがあります。その結果、冒頭に書いたように、不意にその社員が事故でけがをして何か月も入院など長期休職したときに、会社の仕事が回らない問題を抱える羽目になります。

年次有給休暇は、そういう大きなトラブルが起きる前の、予行練習のようなものだとお考えになるとよいです。少なくとも私はそう考えています。

年次有給休暇取得率が低いということは、いつか起きる大きなトラブルに対する備えができていないということです。つまり、社長の危機管理ができていないということなんです。

年次有給休暇がとれない問題の原因はこれだけではなく、他にもいろいろあるのですが、今日は会社の危機管理という面から話をしてみました。もしこんな風に考えていなかった社長さんがいるのなら、そして会社の有給休暇取得率が低いのであれば、少し考えてもらいたいです。