代替休暇の意向確認

  • [記事公開]2023.07.28[最終更新]2023.07.31
  • 就業規則

月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金は、通常の労働時間の賃金額の5割以上の率で計算しないといけないのですが、労使協定を交わした場合、代替休暇を付与し実際に代替休暇を労働者が取得すれば、割増率を5割以上でなく通常の2割5分以上で計算できます。これを代替休暇と言っています。

代替休暇は労働者の意向確認が必要です。

ところが長時間労働をするくらいの労働者ですから、仕事がたくさんかかえています。なかなか休みたがりません。

そこで考えられた就業規則が、こうです。

会社は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った代替休暇取得可能者に対して、当該月の末日の翌日から5日以内に、代替休暇取得の意向を確認するものとする。この場合において、5日以内に代替休暇取得の意向が確認できないときは、意向があったものとみなす。

意向が確認できないとき、意向がなかったものとみなすのではなく、あったものとみなす・・・!?これでは労働者の意向を確認したと言えるのでしょうか・・・?初めてこれを読んだとき、だいぶ悩みました。

通達でも、

代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断によるため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなる。

平成21年5月29日基発0529001号

とし、実際に代替休暇を取得するか否かの決定権は労働者にあるかのように読みとれます。

この点、菅野先生は否定的でした。

しかしながら、代替休暇の付与につき当該労働者の意向を聴取すべきは人事管理上の当然の配慮であるが、代替休暇の法規程(労基37条3項)は、年次有給休暇の場合(同39条5項)のように労働者に休暇の時期指定権を与えているわけではないので、代替休暇の付与につき当該労働者の同意(時期決定)を必須としているとは解釈しにくい。また、そのような解釈が、長時間労働による健康被害の防止という立法目的に合致するかも疑問である。

菅野和夫「労働法」第12版519頁

就業規則で「意向が確認できない場合は、意向があったものとみなす」とした場合、その会社で長時間労働をした労働者は、代替休暇を取得したくなければ「取得したくない!」と意思表示すればよいのです。

それをせずに、意向確認されたのに返事をしないのであれば、会社としては健康被害の防止のために代替休暇を取得する方向で動くというのも一つの手かなと思いました。

ただし、

たとえば、就業規則で「代替休暇は、労働者の意向を聴取したうえ、これを指定できる」と規定した場合には、当該規定は労働契約を規律する効力を認められうる(労契7条・10条)ということになろう(休暇時期指定権の濫用の問題は生じうる)。

菅野和夫「労働法」第12版519頁

とありますように、休暇時期指定権の濫用の問題は残ります。

「会社が勝手に休む日を決めた!」「25%の割増賃金を払いたくない会社が無理やり休ませた!」というトラブルを労働者との間に起こさないよう、こうした代替休暇制度の運用は慎重にやるべきでしょう。