1か月単位の変形労働時間制における半端な週について【労働基準法コンメンタール】

1か月単位の変形労働時間制における半端な週について、厚生労働省が出している労基法コンメンタールを読んで、気が付いたことをまとめます。

あいまいな表現のコンメンタール

コンメンタールにしては珍しいことに、この部分についての記述はあいまいです。

一か月単位の変形労働時間制を採用している場合で、変形期間が週単位でない場合に、一週間について時間外労働であるかどうかを判断するに当たって、どの一週間で見るのかが問題となる。この点については、一週間については歴週でみることとし、変形期間をまたがる週についてはそれぞれ分けて、40×端日数/7でみることが原則であると解されるが、当該事業場において週の起算日を変形期間の開始の日から捉えることとしている場合には、一週間についてはそれにより、変形期間の最後の端日数については40×端日数/7でみることも差し支えないと考える。

まず、「変形期間が週単位でない場合に」とあります意味は、1か月単位の変形労働時間制というのは実はニックネームでして、別に1か月でなくてもよいのです。2週間単位でも3週間単位でも4週間単位でもよいし、あるいは15日単位でもよいし、16日単位でもよいし、要は1週間以上1か月以下の単位を変形期間とすることができます。しかしこれを

1週間以上1か月以下単位の変形労働時間制

と言うと長くてくどいので、単に

1か月単位の変形労働時間制

と呼んでいます。「変形期間が週単位でない場合に」とは、変形期間の単位が1週単位でも2週単位でも3週単位でも4週単位でもない場合、つまり、15日単位とか16日単位とか、1か月単位とかの場合を指しています。

「一週間について時間外労働であるかどうかを判断するに当たって」というのは、時間外労働となる時間が、

①一日については法定労働時間より短い所定労働時間を定めた日については法定労働時間を超えた時間、法定労働時間より長い所定労働時間を定めた日については所定労働時間を超えた時間

②1週間については、法定労働時間より短い所定労働時間を定めた週については法定労働時間を超えた時間(ただし①と重複する時間を除く)、法定労働時間より長い所定労働時間を定めた週については所定労働時間を超えた時間(ただし①と重複する時間を除く)

③変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(ただし①又は②と重複する時間を除く)

というように、

最初に、日

→次に、週

→最後に、総枠

という三段階で時間外労働を判定するうち、2段階目の週の法定労働時間の判定を、どの週で判定するのかということを言っています。

なんせ変形期間が週単位ではありませんから。

15日単位なら15-14=1ですから、1日半端な日が発生します。16日単位なら16-14=2で、2日半端な日が発生します。1月単位なら28日の月(2月)なら半端な日は発生しないかもしれませんが、うるう年なら1日半端な日ができてしまうし、小の月なら30-28=2日半端な日が発生しますし、大の月なら31-28=3日半端な日が発生してしまいます。7の倍数との差分で半端な日が発生するのです。

また、そもそも週の起算日によっては、月の終わりだけでなく月の初めにも半端な日が発生します。この辺、どう交通整理するんですか?という疑問に答えているのが、次です。

「一週間については歴週でみることとし」とありますので、一週間については歴週(こよみの週)で見てくださいということになります。

こよみの週とは、日曜日から始まって、土曜日で終わるのがこよみの週です。この辺、コンメンタールでは丁寧に別のページで説明しています(407ページ参照)。社労士としては、”日曜日起算より月曜日起算にした方が御社にとってはやりやすくなると思いますよ!”とかアドバイスするのに、絶好のポイントなんですが、このあたりを詳しく書いていくと長くなるので別の記事で書くことにして、ここでは1か月単位の変形労働時間制では歴週でみるのが原則だと思っておけばよいです。

歴週でみることにした場合、めんどくさい問題が発生しますね。

例えば、2022年6月は、こんなカレンダーです。

第1週目が4日しかありません。

第5週目は5日しかありません。

いずれも7日ない週となりますが、時間外労働の判定の第2段階目、週の判定をどうしたらよいでしょう??

これに答えているのが次です。「変形期間をまたがる週についてはそれぞれ分けて、40×端日数/7でみることが原則である」とあります。

ハイ!ここ!!ここがあいまいですよね。

ここ初めて読んだときはよく分かりませんでした。その後、何度も読み返して、あるいはいろいろな他の文献を読んで、私なりにこう解釈しました。「みる」というのは「時間外労働であるかどうかを判断する」ことを指し、「40×端日数/7」の部分は、週法定労働時間40時間をそのまま適用すると不都合だから、比例式で計算しなおした値で判断してねというふうに。

しかし、改めて読み直してみると、特に週法定労働時間とは明記していなのです。文脈から、多分そうだろうと推測することができるだけで、はっきりとはしません。

さらに混乱に拍車をかけるのが、次のページの図です。

この図、どこかで見覚えがあるナーと思ったら、厚生労働省のホームページで公開されているリーフレットの図と同じですね。というより、リーフレットの元ネタがこのコンメンタールなんでしょうね。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-2.pdf

コンメンタールの問題の部分を拡大します。

トの部分というのは、まさに端数の日にかかる週の話なんですが、前のページで端日数の週の判定方法を説明しておきながら、ページをめくったらこれですよorz

「1日について8時間、1週について40時間を超えていないが」とありますので、読んでいるこっちは、「あれ?40×端日数/7はどこいった????」と混乱してしまうのです。

一応念のため書いておきますが、この最終週を40×端日数/7で計算しますと、

40×3/7=17.1時間

所定労働時間数は16時間ですから、多いのは17.1時間の方です。

だからこの週の時間外労働の判定は、17.1時間を超えているかどうかで判断する・・・と私は考えていたのですが、「1週につき40時間を超えていないが」とありますので、16時間と17.1時間を比較するのではなく、16時間と40時間とを比較するのですかね・・・。わかりませんね。そんな馬鹿なと思いますが。

どっちにしろ、この週は時間外労働の第二段階目の判定としては、NO残業というジャッジになるかと思います。そこはゆるがないのですが、途中の判定方法が問題なんです。17.1なのか40なのか、そこが問題だ!それによってExcelのIF文の内容が変わってきてしまうんですヨ。いや別に私はつくっていないけども。作る気もないのですが、いつか誰かが変形労働時間制に対応した給与第一みたいな傑作を作ってくれたらいいな!と思ってはいます。(京都第一法律事務所様の作った給与第一はすごいですよね。社労士は使えないですが。でもあれは変形には対応していないのです。)

まあ、とにかくこんな風に、コンメンタールの文章はあいまいではっきりしないのです。

東京労働局のリーフレット

厚生労働省のリーフレットはホームページの情報を信じるなら、平成26年3月の作成です。一方、東京労働局でも似たようなリーフレットを作成していまして、平成27年3月の作成です。三重県労働局だと厚生労働省のリーフレットをそのまま使っている(2022年5月18日確認)のに、なぜか東京労働局は独自で作成しているのです。

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501873.pdf

詳しくは書きませんが、東京労働局のリーフレットが厚生労働省のリーフレットと異なる点は2つあります。

1つは、最後の週の判定の仕方を書いていないこと。

1つは、総枠を超えた時間を最後の労働日(31日)でない日に置いていること。

以上2点だけ、私は気が付きましたが、ひょっとするともっと違うところがあるのかもしれません。

ここからは憶測ばかりになりますが、多分東京労働局の担当者は、厚生労働省のリーフレットに満足できなかったんだと思います。例えば、最後の週の判定の仕方について・・・違うかな?

総枠を超えた時間をどの日に置くかは、私はあまり意見を持ちません。あまり意味のないこと(31日に置こうが、その前の最後の時間外労働をした日に置こうが、時間数と割増率には変わりはない)だと思うからです。

連合会の見解

今回図書館で文献をあさっていたら、全国社会保険労務士連合会の本でもこの半端な週に言及しているところを見つけました。

労働基準法の実務相談令和3年度

所定と法定とを比較せず、いきなり実労働時間と40×その部分の端数日数÷7で計算した時間数とを比較している点に私は疑義をもつものでありますが、その点はさておき、厚生労働省のコンメンタールを根拠に論を展開している点、それから、行政解釈通達はないと言っている点に注目したいです。

私も探しに探しましたが、この辺の言及はいつもコンメンタールに行きつくばかりで、行政解釈通達も、判例も見つけることができませんでした。

現時点での結論(今後の方針)

今回の調査でいくつか判決文を読みましたが、その中で参考になると思ったのが、JR東日本の1か月単位の変形労働時間制についての判決文(平成12年4月27日東京地裁JR東日本事件)の中の文章です。

1か月単位の変形労働時間制において、労働時間の変更を行うことができるかどうかが争われたものですが、裁判所の判断を述べているところで、次のように書いてあります。

一か月単位の変形労働時間制の下で就業規則に変更条項を置き、これに基づいて特定後の労働時間の変更を行うことが適法であるか、どのような場合に適法とされるか等については、本件各命令当時から今日に至るまで、学説においては異なる複数の見解が対立し、裁判所の判決等を通じて一定の結論が示されたようなこともなかった。

平成12年当時でこれですからね。

1か月単位の変形労働時間制ができたのが昭和61年でしたっけ?それまでの4週間単位の変形労働時間制が使い勝手が悪くて、1か月単位が導入されました。

その後、平成12年にこの判決がでるまで、どうやったら合法に労働時間を変更できるのか、これといった結論が出ていなかったのです。

ましてや、端数の週でをや。

現時点では端日数の週の計算方法については、結論は出ません。なぜなら、制度自体がまだ成長の途にあり、さまざまな判例や学説が出そろっていないからです。

いずれ結論が出るときがくるのかもしれませんが、ひとまず私が現時点で言えることは、労働者有利になる方法で考えておくこと、いざそのときが来たら労基署当局に問い合わせることです。今回は私は伝聞でしか話を聞いていないので、私の地元の労基署に問い合わせるには根拠が弱く、具体的に動くことができません。労基署は管轄内の事業所の話でなければ、対応をいやがりますので(ていうか、労基署の法的根拠を失うので)。

ただ、いざそのときが来たときに困らないように、引き出しをたくさん持つことができたと思います。