所定休日25%の悪夢

外国人技能実習生の監査を担当していたとき、私を悩ませたのが雇用契約書にある所定休日の割増率の項目でした。

外国人技能実習生の雇用契約書

まずは実物を見てもらうのが一番良いので、見てもらいましょう。

これが外国人技能実習生の雇用契約書です(一部)。

外国人技能実習生の雇用契約書(機構参考様式第1-14号)の一部。休日の項に法定外休日( )%とある。

これを企業に記入してもらい、外国人技能実習生候補生との面談に持って行くのですが、企業の方は忙しいのか、たいていよく確認せず、次のように書いてくることが多かったです。

よくある雇用条件書の例。法定外休日の項目が25%となっている。

お分かりいただけるでしょうか。法定外休日の割増が25%になっていることを。

法定外休日というのは所定休日のことです。法律で定めた休日ではない休日のこと。

これは、どういう場合に問題になるかというと、次のようなケースです。

所定休日25%が問題となるケース

所定休日に労働させてしまった例。

この場合、土曜日の賃金計算はどうなるのでしょう?

雇用契約書通りであれば、

時給×(1.25+0.25)×8時間

となると私は思うのですが、次のように計算している企業が異様に多くて、困りました。

時給×1.25×8時間

これでは所定休日の25%が支払われておらず、未払い賃金になってしまいます。

所定休日25%を理解していない企業(と労働者)

よくよく企業の方の話を聞いたり、その企業の就業規則(賃金規定)を拝見すると、法定外休日の項目は、次のように記載するのが正しかったということが分かりました。

法定外休日 0%

これだと違和感を持つ方がいるようなのですが、問題はありません。

なぜなら、先の例ですと週40時間を超えた場合の割増率はすでに、「所定時間外」の項目で25%とされているからです。

土曜日に働いた分は、(b)休日の項目の25%ではなく、(a)所定時間外の項目の25%で支払われるのです。

今さら0%にできない割増率

ところで、労働契約は労働者の不利に変更するのが大変難しいです。

労働基準法は最低限ギリギリの基準を定めたものです。

労使は労働基準法が定めているからと言ってことさらに低い労働条件に甘んじることなく、よりよい労働条件を設定するよう奨励されています。

ということは、法定外休日の割増率を25%と定めた労働契約書は、労働基準法を上回る労働条件にしたものとして、有効になるのです。

ですから、労働契約書が25%となっている項目を、実際には0%だからと言って0%に書き換えてよいものかというと、できないのです。

労働契約法第8条で労使は労働条件を合意により変更できるとしていますが、労働者の不利に変更する場合の手続き、合意の意思確認というのは、相当高度な技術を要し、下手にやると無効になってしまいます。

かといって未払い賃金になっていますと指摘してもむなしいのです。なぜなら労使双方で間違っているからです。そもそも使用者側の認識が間違っていたので、口頭での説明も、実際に賃金が支払われたときの説明も、「土曜日に働いたら25%!」で統一されており、労働者もそういうものだと思い込んでいました。労使双方が、雇用契約書を正しく読み解くことができていなかったのです。

これが民法で言う錯誤というやつでしょうか・・・?善意の第三者が存在しないので、お互いが錯誤状態に陥っていても、特に問題にならず、平和なままです。ただ一人、監査で気が付いた私が狼狽し、「困った、困った」とあたふたしているだけでした。

苦肉の策

という訳で、悩んだ末の私のとった策は次のような追記でした。

※但し(a)と重複する時間を除く。という追記をした例。

(a)というのは所定時間外の項目のことです。

これなら0%にせずとも、実際の賃金計算に合わせることができますし、使用者側の認識と労働者側の認識とも同じはずなので一番トラブルが少なく済むかと思いました。実際に、土曜日以外の所定休日(例えば年末年始やお盆休みなど)に法定外休日労働させた場合は25%割増で払ってもらう必要が残りますが、その辺はほとんど例がなかった(日本人が出勤になることはあっても外国人まで出勤となるケースはまれ)ので、問題にはなりませんでした。※

※これだって、労働者に対する不利益変更だと指摘を受けたら、反論の余地はない。

問題は、これを母国語訳にする作業でした。

サンプルは日本語だけですが、実際には母国語併記しないといけません。

ベトナム語、インドネシア語、中国語、英語、ネパール語と本国の言葉に合わせてそれぞれ直さないといけず、大変でした。

なお、言わずもがなですが、次に面接する外国人技能実習生からは、新たに雇用契約書を作成する際は、正しく0%としてもらいました。