学童保育クラブを保護者が運営する法的根拠

学童保育クラブを親が運営するのには、もちろん法的根拠があります。

学童保育(いらすとやさんから)

市町村の努力義務

まずは児童福祉法。

市町村は、児童の健全な育成に資するため、その区域内において、放課後児童健全育成事業、子育て短期支援事業、乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業、地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、病児保育事業及び子育て援助活動支援事業並びに次に掲げる事業であつて主務省令で定めるもの(以下「子育て支援事業」という。)が着実に実施されるよう、必要な措置の実施に努めなければならない。
一 児童及びその保護者又はその他の者の居宅において保護者の児童の養育を支援する事業
二 保育所その他の施設において保護者の児童の養育を支援する事業
三 地域の児童の養育に関する各般の問題につき、保護者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行う事業

児童福祉法第21条の9(ハイライトは筆者)

「放課後児童健全育成事業」というのがいわゆる学童保育のことです。

主語は市町村で、語尾が「努めなければならない」なので、学童保育は市町村の努力義務になっているということです。学童保育は市町村の絶対やらないといけない義務ではないんですね。

市町村が事業を行うことができるだけ。行わなくてもよい。

さらに、こちら。

市町村は、放課後児童健全育成事業を行うことができる。
② 国、都道府県及び市町村以外の者は、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を市町村長に届け出て、放課後児童健全育成事業を行うことができる。

児童福祉法第34条の8(ハイライトは筆者。第3項と第4項は省略)

市町村は、学童保育を行うことができるとありますので、極論を言ってしまえば、したくないならしなくてもよいということになります。

第2項でお役所以外のものでも学童保育ができると言っているので、これが保護者が運営する根拠のようです。

市町村は条例を定める義務がある

ところが、次の条文を見てください。

市町村は、放課後児童健全育成事業の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な水準を確保するものでなければならない。

 市町村が前項の条例を定めるに当たつては、厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。

児童福祉法第34条の8の2(ハイライトは筆者。第3項は省略)

市町村は、学童保育の設備及び運営について、条例で基準を定めるのは義務となっていることが分かります。実際に事業を行うかどうかは別として、設備と運営については基準を定めないといけないんですね。

その際、厚生労働省令で定める基準を参酌しろと言っているのですが、参酌というのは参考にしてよいところを取り入れることというのが辞書的な意味ですが、法律用語で使うときは「従うべき基準」という表現をしたときより「参酌すべき基準」という表現をしたときの方が自由度が高くなるようです。ようく理解した上でなら、基準通りでない条例を定めてもよいということです。

放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準 – 平成26年4月30日厚生労働省令第63号

それで、その条例をみてみましょう!

高崎市の条例

高崎市放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準を定める条例

http://ted.city.takasaki.gunma.jp/reiki/reiki_honbun/e203RG00001559.html

こちらを読むと、高崎市の場合は厚生労働省令で定める基準どおりに条例を定めたことが分かります。改正当時「参酌」とされたことから、2人以上とした基準を下回る1人での設置を認めることが心配されたらしいですが、高崎市の場合は基準を下回る設置(いわゆるワンオペ)は認めていないようです。

高崎市から委託されている。随意契約である。

では保護者主体の運営が、高崎市からどのような形で委託されているかというと、随意契約による委託だそうです。

本市では各小学校区単位の地域で組織された運営委員会へ当該事業を委託することが適切であると考えており、各運営委員会と随意契約しております。また、その委託金額については、国、県および市の実施要綱等による算定基準に従い算出しております。

https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2018071100138/

この随意契約による委託にかかる契約書を、私は学童保育の役員だった当時拝見したことがありません。

おそらくそういった雑務はすべて高崎市役所職員だった保護者さんがやってくれていたようです。

こういう雑務は事務のプロならなんてことはないのかもしれませんが、本業とは別にやるということに何とも言えないもやもやしたものを感じます。

まとめ

学童保育クラブを親が運営している法的根拠は、児童福祉法第34条の8第2項だということが分かりました。

高崎市の場合は、随意契約で毎年保護者の運営会に委任しているそうです。

さて問題は、こういったことを運営主体となる保護者が理解しておかないといけないということです。

私が学童保育クラブの役員だったときはまだ社会保険労務士ではなく、ソフトウェア会社で働く単なるパート労働者でした。

経営者でもない、経営者になりたい訳でもない、ただの労働者が否応なく高度に専門的な知識を身につけてもらわないといけないというのは、負担の大きい話だなと思います。

なお、当事務所は学童保育クラブの役員となった保護者を啓蒙しよう!とか、市に要望を出そう!とか、そういったことは考えていません。負担の多い、大変な保護者会の仕事の中で、人を雇うときに問題となることについて、少しでも社労士としてお役に立ちたいと考え情報発信する日々です。

学童保育向けメール顧問サービス – 野口香社会保険労務士事務所