雇い入れ時労働条件明示義務がありますが、労働条件を変更した際にも明示義務があるのでしょうか?

  • [記事公開]2022.08.03[最終更新]2022.09.01
  • 労務相談

労働契約は口頭でも成立します。これは民法の考え方によるものです(諾成契約といいます)。

ところが、雇われる者が思っている労働条件と、雇用者の考えている労働条件とに食い違いがありますと、のちのちトラブルになります。そうならないように、あらかじめ労働条件を明確にしておくよう、民法の特別法である労働基準法では、使用者に労働条件明示を義務付けています。

雇い入れ時の労働条件明示義務

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。このことは、労働基準法第15条に定められています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

労働基準法第15条1項

「労働契約の締結に際し」ですから、労働者を雇い入れたときです。

「厚生労働省令で定める方法」というのは、文書によるもののほか、労働者が希望する場合はFAXやEメールによる方法でも認められています。

一般的には、「労働条件通知書」という書面での明示が多いです。

労働条件が変更になる場合の明示義務は?

では、労働条件が変更になる場合はどうでしょう?労働条件を変更する場合にも、労働条件の明示は使用者に義務付けられているのでしょうか?

他国では雇入れの際及びその変更の際の両方の場面で、明示が義務付けられている国もあるようですが、現在のわが国の法律では、労働条件の変更については、労使が同意すること、労働者の同意なく就業規則を変更して労働者の不利益に労働条件を変更することはできないことは定められていますが、雇い入れのときの労働条件通知義務のように、労働条件を変更したときにも労働条件を明示することまでは義務付けられていません。

ただし、労働契約法第4条2項では、

労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

労働契約法第4条2項

とされています。これは

労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものであること。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものである

平成24年8月10日基発0810第2号

から、変更の場合も書面により労働条件を確認する方がよいでしょう。

労働条件変更の具体例

私のコンビニでのアルバイトの事例で具体例を紹介します。

私は、2022年3月15日から6か月間の有期雇用契約で契約し、まだ半年経っていませんが、すでに2回も労働条件を変更しています。

1回目は4月です。

4月のシフト表が発表されたときに、採用時面接で私が希望したことが反映されていませんでした(私は早朝働きたかったのに、昼間がメインのシフトとなっていました)。

雇用条件書をよく見ると、確かに昼間がメインとなっていました。これは私と会社とで理解に食い違いがあることが原因でした。

早朝は、既にほかの従業員のシフトが決まっていたので私の入る余地は2日分しかなく、当初予定していた週20時間は無理であることが分かりましたが、それについてはやむを得ないことを了承しました。

2回目は5月です。

早朝だけ週2日だけのシフトで働き始めたところ、早朝担当の従業員が一人おやめになり、私がそこの穴を埋める形で入ることになりました。これは私から言い出したのではなく、会社から話があったものです。もちろん快諾しました。また、働く時間帯も早朝6時からではなく、5時からとなりました。

以上の2回とも、口頭ないしSMS(ショートメッセージサービス)だけのやり取りでして、文書では明記されていません。

このような場合であっても。労働契約は有効に成立しています。

文書で明記しないことのデメリット

労働条件を短期間に2回も変えたことにより、何が問題となったかというと、半年経過後の有給休暇付与の条件である、全労働日の8割以上の出勤という条件を計算するのが大変めんどうになったことです。

口頭でも有効に契約が成立しますから、雇い入れ時の契約(これは文書化されている)と、私から早朝希望を申し出た1回目の労働条件変更(口頭のみ)、会社から話の合った2回目の労働条件変更(口頭のみ)と、合計3種類の労働条件が存在しています。

「この場合、全労働日ってどの労働条件の労働日を言うの!?それに8割以上って、どう計算したらよいの!?」と会社の方が困っていました。

さて、どう計算したらよいのでしょう?

一応、こうしたらよいという私なりの回答がありますが、複雑になりますのでここでは紹介しません。

ここで強調したいのは、労働条件を変更した時にも、労働条件通知書を発行する方がよいということです。

労働条件通知書は使用者から一方的に通知するだけでよいものですから、例えば次のような書式で都度発行するのがよいと思います。

労働条件変更通知書のサンプル

サンプルは通知書兼同意書となっていますが、単に通知書として、労働者のサインをもらう欄をなくしてもよいでしょう。この場合、誰の分か分かるように、対象者の氏名を記載する欄を新たに設けてください。