1年単位の変形労働時間制における「週」とは

1年単位の変形労働時間制における「週」とは、任意で定めてよいものでしょうか、暦週でしょうか、それとも変形期間の開始の曜日を起算とする7日間でしょうか。

きっかけ

なぜこのような疑問を持ったかと言うと、昨日書いたブログの続きを書こうとして、1年単位の変形労働時間制について私はあまりにも知らないことに気が付いたからです。

特に、週の取り扱いについて分からないことが多いです。

そこで、1年単位の変形労働時間制における「週」とはいったい何なのか、各種法律の条文と行政解釈を整理してお示しし、最後に私の今現在の考えを紹介します。

法32条 労働時間

1年単位の変形労働時間制と比較するために、最初に通常の労働時間制について説明します。

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法32条(太字部分は筆者)

この32条には行政解釈が出ています。次のとおりです。

法第三十二条第一項で一週間の法定労働時間を規定し、同条第二項で一日の法定労働時間を規定することとしたが、これは、労働時間の規制は一週間単位の規制を基本として一週間の労働時間を短縮し、一日の労働時間は一週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えるという考え方によるものであること。

一週間の法定労働時間と一日の法定労働時間との項を分けて規定することとしたが、いずれも法定労働時間であることに変わりはなく、使用者は、労働者に、法定除外事由なく、一週間の法定労働時間及び一日の法定労働時間を超えて労働させてはならないものであること。

なお、一週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。

また、一日とは、午前〇時から午後十二時までのいわゆる暦日をいうものであり、継続勤務が二暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「一日」の労働とすること。

昭和63年1月1日基発1号(太字は筆者)

法32条における1週間というのは、就業規則で任意に定めてよいことが分かります。また、定めていない場合は日曜日から土曜日までのいわゆる暦週を指すということです。

整理すると、次のようになります。

労働時間(基本)の1週間

  • 就業規則で任意に定める
  • 定めていない場合は暦週

法32条の2 1か月単位の変形労働時間制

次に、1か月単位の変形労働時間制について見てみます。

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
② 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

労働基準法32条の2(太字部分は筆者)

この1か月単位の変形労働時間制について、労働法コンメンタールでは次のようにあります。

一か月単位の変形労働時間制を採用している場合で、変形期間が週単位でない場合に、一週間について時間外労働であるかどうかを判断するに当たって、どの1週間でみるのかが問題となる。この点については、一週間については暦週でみることとし、変形期間をまたがる週についてはそれぞれ分けて、40×端日数/7でみることが原則であると解されるが、当該事業において週の起算日を変形期間の開始の日から捉えることとしている場合には、一週間についてはそれにより、変形期間の最後の端日数については40×端日数/7でみることも差し支えないと考える。

令和3年版労働基準法(労働法コンメンタール)433p

整理すると、次のようになります。

1か月単位の変形労働時間制の1週間

  • 暦週
  • 変形期間の開始日の曜日を週の起算日とする方法も可

法32条の4 1年単位の変形労働時間制

続いて、1年単位の変形労働時間制の条文を見ていきます。退屈かもしれませんが、どうしても週について説明するために必要ですので、引用します。

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

労働基準法32条の4第1項

ここまで順番に法律の条文を読んできて、まず32条で通常の労働時間制を定め、その後32条の2ないし32条の4で、所定の手続きと要件を備えた場合は、32条の規定にかかわらず、1週間40時間を超えて労働させることができる・・・という順番で、32条の2ないし32条の4が定められているということに気づきます(当たり前ですが)。何が言いたいかと言うと、32条が基本であり、32条の2ないし32条の4はその例外であるということです。

では、次に「週」というキーワードに気をつけながら、その具体的な要件を対象期間を1年とする場合に限定して見ていきます。32条の4における「週」の行政解釈を導出するために、どうしても必要ですので、これも長いのですが、できる限り省略して引用します。

対象期間が1年の場合の1年単位の変形労働時間制の要件

まず協定で定めないといけない事項は、次のとおりです。

  • 対象となる労働者の範囲(労基法32条の4第1項1号)
  • 対象期間(1年か、3か月なのか、9か月なのか。今回この事例では1年。労基法32条の4第1項2号)およびその起算日(労働基準法施行規則12条の2第1項)
  • 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)およびその起算日(労基法第32条の4第1項3号、労基則12条の2第1項)
  • 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を平均し1週間当たりの所定労働時間が40時間の範囲内)
  • (就業規則により定める場合)各日の始業および終業時刻(労基法89条)
  • 有効期間(労基法32条の4第1項5号、労基則12条の4第1項。不適切な運用を防ぐため、1年程度が望ましいとされています。平成6年1月4日基発1号、平成11年3月31日基発168号)

そして、カレンダーは次の要件を満たしていないといけません。

  • 対象期間における1日の所定労働時間が10時間を超えないこと(労基法32条の4第3項、労基則12条の4第4項)
  • 対象期間における1週間の所定労働時間が52時間を超えないこと(労基法32条の4第3項、労基則12条の4第4項)
  • 対象期間における連続して労働させる日数が6日を超えないこと(労基法32条の4第3項、労基則12条の4第5項)
  • 特定期間における連続して労働させる日数が12日(1週間に1日の休日が確保できる日数)を超えないこと(労基法32条の4第3項、労基則12条の4第5項)

対象期間が3か月を超える場合はさらに、次の要件も満たしていないといけません。

  • 対象期間の所定労働日数が、280日×(対象期間の歴日数÷365日)を超えないこと(労基法32条の4第3項、労基則12条の4第3項。旧協定が存在する場合の制約(労基則12条の4第3項)についてはここでは割愛)。
  • 対象期間において、所定労働時間が48時間を超える週が連続3週間以下であること(労基則12条の4第4項1号)
  • 対象期間をその初日から3か月ごとに区分した各期間(3か月未満の期間を生じたときは、当該期間)において、所定労働時間が48時間を超える週が合計3週間以下であること(労基則12条の4第4項2号)

太字部分は筆者によるものです。

なお、1年単位の変形労働時間制の「週」の解釈について行政解釈が出ています。次のとおりです。

問 対象期間が三か月を超える場合には、その労働時間が四十八時間を超える週が連続する場合の週数が三以下であること等の要件を満たさなければならないが、ここでいう「週」については暦週と解してよいか。

答 則第十二条の四第四項における「週」については、対象期間の初日の曜日を起算日とする七日間である。

平成11年3月31日基発169号

質問は対象期間が3か月を超える場合に限定した質問だったようですが、回答は則第12条の4第4項全体にかかる答えとなっています。則第12条の4第4項というのは、先に長々と引用した要件の中にちょいちょい出てきた条文です。

法第三十二条の四第三項の厚生労働省令で定める一日の労働時間の限度は十時間とし、一週間の労働時間の限度は五十二時間とする。この場合において、対象期間が三箇月を超えるときは、次の各号のいずれにも適合しなければならない。
一 対象期間において、その労働時間が四十八時間を超える週が連続する場合の週数が三以下であること。
二 対象期間をその初日から三箇月ごとに区分した各期間(三箇月未満の期間を生じたときは、当該期間)において、その労働時間が四十八時間を超える週の初日の数が三以下であること。

労働基準法施行規則12条の4第4項(太字部分は筆者)

先の行政解釈では、則第12条の4第4項で使われている「週」が暦週ではなく対象期間の初日の曜日を起算日とする7日間であると言っています。

ここで注意しないといけないのは、対象期間が3か月を超える場合に限定されていない点です。1週間の労働時間の限度は52時間とするというのは、対象期間が3か月以下の場合でも共通で要件となっています。

つまり、1年単位の変形労働時間制の1週間というのは、変形期間の開始日の曜日を週の起算日とする7日間のことだと行政は解釈しているのです。

整理すると、次のとおりです。

1年単位の変形労働時間制の1週間

  • 変形期間の開始日の曜日を週の起算日とする7日間

行政解釈の分析

以上、三種類の労働時間制における1週間について、行政解釈をみてまいりました。

まとめると次のとおりです。

行政解釈における「1週間」の分析 – 徐々に運用が厳しく、難しくなっています。

法32条の行政解釈では週の起算日は任意でした。しかし、法32条の4の行政解釈では週の起算日は変形期間の開始日の曜日を起算日とする7日間となっています。

これをどのように解釈(運用)するかで私は困っています。

具体例1

次のようなカレンダーがあったとします。

変形期間の開始日の曜日が週の起算日と一致しているカレンダーの事例

このカレンダーに基づいて運用する1年単位の変形労働時間制は平和です。

週の起算日が変形期間の開始日の曜日と一致しているからです。

32条の4の立法者の意図していたことは、多分このようなカレンダーだったのではないかと私は考えています。

つまり、32条では週の起算日は任意でしたが、32条の4は1年と言う長い変形期間の中でさまざまな制約を受けながら労働者に負担の大きい労働時間制で働いてもらう都合上、週の起算日は任意とはならず、変形期間の開始日の曜日と一致させるという、これもまた一つの制約とすべしというような意識が働いて、平成11年3月31日基発169号「則第十二条の四第四項における「週」については、対象期間の初日の曜日を起算日とする七日間」という厳しい、扱いづらい通知になったのではないかと思うのです。

具体例2

ところが実務においてよく見かけるのは次のようなカレンダーです。

週の起算日と変形期間の開始日の曜日とが一致しないカレンダーの事例

この労使協定では特定期間はなしでした。週48時間を超える週もありません。

この変形期間の起算日の曜日は木曜日ですが、給与計算においては週の起算日は土曜日で計算されていました。確か就業規則で土曜日が起算日になっていたように思います(ちょっとこの辺うろ覚えです。申し訳ありません)。

要するに何が言いたいかと言うと、変形期間の開始日の曜日と、給与計算上の週の起算日は異なることがあるということです。つまり、平成11年3月31日基発169号の行政解釈とは異なる運用となっています。

実際、Web上ではそのような議論をしているのを見ました。

週の始まりは日曜日? – 総務の森-

↑この掲示板の中で、1年変形であっても週の起算日は就業規則で任意に定めてよいと解釈している発言が出てきます。また、労使協定の中で週の起算日を定めている1年変形の事例も出てきます。

はたして1年変形の週の起算日は、任意か、暦日か、変形期間の開始日の曜日と一致のいずれか。正直に言って、現時点では私も結論は出ていません。

私の考え

則12条の4第4項は労使協定をする段階の要件であって、運用する段階でも必要とされる要件ではないという風に解釈することもできます。

計画(協定)段階では週の起算日は開始日の曜日と一致させ、1週間ずつの労働時間を計算したけど、実際に運用が始まり、毎月の給与計算をするにあたって、給与計算事務担当者は就業規則に定めのある起算日(事例2では土曜日)を見て1週間ずつの法定労働時間超がないか計算する・・・・現実世界ではこれが普通に起きているのではないか?と思います。

もう一つ、平成11年3月31日基発169号「則第十二条の四第四項における「週」については、対象期間の初日の曜日を起算日とする七日間」というのを無視して、あくまで週の起算日は給与計算で使う週の起算日と一致させ、それを労使で合意しておき、その上で1年間のカレンダーを作成し、各週の労働時間について労使で交渉して合意すれば、十分1年単位の変形労働時間制の要件を具備したと主張できるという風に解釈することもできます。

この場合、協定で定めた週の起算日はもともと給与計算で使う週の起算日と同一ですから、賃金計算の段階で困ることはないでしょう。

要するに、今現在の私の考えとしては、1年変形であっても1週間の起算日は任意に定めることができるという解釈に傾いています。といっても、あくまでこれは私個人の考えであって、法廷闘争の場に持ち込まれたときに、この考えが通用するかというと別問題ですので悪しからず。

まとめ

以上、1年単位の変形労働時間制の1週間について私の考えを説明しました。

何かのお役に立てば幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。