【早出】時間外労働となるのはどの時間か【実労働時間基準と所定労働時間基準】

所定労働時間が8時間の企業で、ある従業員が1時間の早出を命令されました。この従業員は、命令通り1時間早出をし、その日合計9時間働きました。

この場合、この従業員の時間外労働となる時間は、①早出の1時間でしょうか、②所定労働時間の最後の1時間でしょうか?


時間外労働となるのは、①か②か


実労働時間基準説

実労働時間基準なら②が時間外労働時間となります。

朝所定の始業時刻より1時間早く出社し、そこから8時間を経過するまでは法定労働時間である1日8時間を超えていません。

最後の1時間だけが法定労働時間を超えるので、②が時間外労働時間としてカウントアップされます。

これが実労働時間基準説の考え方です。

所定労働時間基準説

所定労働時間基準なら①が時間外労働時間となります。

就業規則にさだめた所定労働時間は始業時刻から終業時刻までですから、その枠外の労働である①の部分が時間外労働時間としてカウントアップされます。

これは「当事者の意識、実務の取扱い、一般常識とも整合的な考え方」(東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」148頁)でもあります。

所定労働時間基準説では、労働義務が存在する時間はどこから始まってどこで終わるのか?を意識します。そもそも雇用契約(民法623条)ですからね、役務提供義務の存否を意識しないでどうするんだという話です。

どっちがよいのか?

東京大学労働法研究会によれば、

所定労働時間の労働時間規制における意義を考慮すると、第1、第2段階の労基法違反は原則として「所定労働時間基準説」によって統一的に処理し、補足的に「実労働時間基準説」の考え方を援用するのが適切であると考える。

東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」149頁


だそうです。

どういうことかと言うと、


「所定労働時間基準説」により、現実に8時間を超える労働(筆者注:パターン2の②部分)を行うことによって、通算して8時間を超えることになった所定始業前の部分(筆者注:パターン1の①部分)が刻々と違法労働となると解することは十分可能である。

東京大学労働法研究会「註釈労働時間法」149頁


ということですので、犯罪(1日8時間を超えて労働させる)の実行行為は①部分の労働をさせることではなく、②の部分の労働をさせること(により8時間を超えたこと)となります。したがって、次の図のパターン3のように、この通算して8時間を超える労働を免除すれば犯罪も成立しません。


パターン3では労基法違反とはならない


まとめ

実務では所定労働時間基準で仕事をしても全然困らないと思います。給与計算のときは、普通所定労働時間基準説でみなさん計算しているんじゃなかと思います。無意識かもしれませんが。

この所定労働時間基準説と実労働時間基準説とをなぜ紹介したかというと、変形労働時間制の総枠を超えた労働がどの部分になるか?という問題に行きつくからです。この話は、長くなるのでまた別の日に記事にします。