裁判所で傍聴していてつくづく思うこと

相変わらず裁判所に通っています。労働紛争の事件があれば傍聴するようにしています。そうして思うことは。

ADR

今、ADRというものがあります。裁判外紛争解決手続と訳します。Alternative(代替的) Dispute(紛争) Resolution(解決)の頭文字をとってADRと言っています。

いろいろなADRがありまして、社会保険労務士会がやっている紛争解決センターもその一つです。労働局の紛争調整委員会によるあっせんも一つ。労働委員会も都道府県によっては個別労働紛争を取り扱っていますし、他にも東京都労働相談情報センターのあっせんがあります。裁判所でも労働審判を行っています。

裁判外紛争のメリットは、解決までの道筋が早いってことです。裁判では長いものでは1年~2年かかりますが、労働審判ではだいたい4割が1回目の話し合いで終了するそうです。統計を見ると2回目で終了する確率も4割だとか。つまりだいたい8割が2回目までに終了しているということになります。

でも、一番のメリットは、非公開で行われるということだと思います。

今日は、この点を紹介します。

裁判

裁判は原則公開です。これは、次の条文が根拠です。


すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。


日本国憲法37条1項


裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。


日本国憲法82条1項


裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。


日本国憲法82条2項

私がもし刑事事件の被告人だったら、正直言って、第三者に傍聴されたくないと思います。でも、憲法にありますとおり、公開裁判です。

もし私が民事事件の原告なり被告になったとしたら、やっぱり第三者には傍聴されたくないなと思うと思います。しかし、公開が原則です。

ましてや、裁判記録を知らぬ間に第三者に閲覧されるなんて・・・・絶対に嫌だと思います。しかし、現実に私は記録を閲覧できてしまっているのです(民訴法91条)。裁判記録には証拠も含まれます。私の住所と名前と生年月日が記載された免許証だって、証拠として提出していたら、第三者に閲覧されてしまう訳です。

そこで、ADRをおすすめする訳です。

ADRのメリット

裁判外紛争の場合、原則非公開です。

どんな話し合いがなされたか、どんな証拠が提出されたか、部外者には知りようがありません。

私が見た裁判記録の証拠の中には、給与明細がありました。自分がいついくらをもらっていたか、第三者に知られたいと思いますか?私なら、知られたくないです。

例えば、和解で数百万円のお金が手に入ることになったとします。それを誰かに知られたいと思いますか?私なら、知られたくないと思います。しかし、裁判だと原則公開ですから、傍聴人がいたら、人には聞かれたくないことも聞かれてしまうのです。

たとえ裁判で傍聴人がいなくても、安心できません。裁判が終わってからも、5年間は記録の保存が義務付けられていますから。

ADRなら、その心配はないのです。非公開ですから。

裁判のメリット

一応、公平を規すために、裁判のメリットも紹介しておきます。裁判のメリットは、紛争解決のフル装備である点です。

よく言われる例ですが、ADRが町医者だとすると、裁判は大病院の外科手術です。

ちょっとした風邪ならかかりつけの町医者にかかって済ませることが多いと思いますが、大きなけがのときは大病院にかかって、場合によっては手術を受けます。裁判はその大病院の外科手術に相当するものだと考えるとよいと思います。

フル装備解決手段ですので、納得いくまで争うことができます。裁判官の判決に納得できなければ控訴して高等裁判所でさらに審理してもらうことができます。さらに、裁判所の判決には法的拘束力があります。一方ADRには拘束力はなく、別途民事訴訟を起こさないとお金をゲットできない場合があります(労働審判は別)。

何かの参考になれば幸いです。